ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第7話「狩人とおとぎ騎士団」

『おとぎの城』は、美しい白石の素材で作られた壮大な建物でした。見上げるのも困難なくらいてっぺんは高く、町の建物とは比べ物になりません。
 おとぎの国のシンボルとも言えるこのお城。狩人の話によれば、どうやらここに、赤ずきんが囚われているようです。

 白雪姫「…………」
 オオカミ「これがおとぎの城か。近くで見ると、やっぱり大きいね」
 狩人「相変わらず、変わり映えのしない場所だな。……さて、準備は良いか? 今から俺たちは、おとぎの城に侵入する」
 オオカミ「具体的な案はあるの? ぼくら、ノープランでここまでやって来たんだけど」
 狩人「安心しろ、俺に策がある。まずはある程度おとぎの城まで近づくぞ」

 そうして4人は、出店の準備がされている通りを抜け、おとぎの城の門番たちがいる付近まで近づきます。門番は2人いて、鉄の鎧を纏いそれなりに屈強な肉体をしていました。とはいえ、こちらには反則じみた強さを持つ狩人と、狼のオオカミがいるので、無理やり正面突破をする事もおそらく可能でしょう。しかし、騒ぎに気付かれればたちまち増援を呼ばれ、侵入が困難になります。

 オオカミ「ふむ、門以外の城の周りは壁になってるね。しかも登り難くするように柵が作られている。町の外壁みたいによじ登るのは難しそうだ」
 狩人「そこで俺の作戦の出番ってわけだ」
 オオカミ「一体何をする気だい?」
 オオカミ「まず3人は、この場所で割りかし高い場所に移動してもらう。……そうだな、あれが良い」

 狩人が指し示した方向には、木製で出来た監視用の高台がありました。幸いにも今は誰も使っていないようです。
 白雪姫とオオカミは、狩人に言われた通り高い台の梯子を登ります。

 ケルベロス「ぶぅ、ぶー!」
 狩人「あ? 1人じゃ登れないのか? ……まあ、お前は別に登らなくても良いか」
 オオカミ「おーい、登ったよ。これからどうすれば良いんだい?」
 狩人「あーわかった。あとは任せろ」

 そう言って狩人は2人に手を振り、それからスゥーーっと息を吸い込みそして、





 狩人「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! あんな所におとぎの国のお姫様、『白雪姫』が居るぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」





 ……………………え?
 と、白雪姫とオオカミは、惚けた顔で声を上げます。
 そして、そんな2人を気にかける事なく、狩人はさらに声を張り上げます。

 狩人「ああ!! まさかカノ白雪姫が生きていたなんて!! どこかで亡くなったと聞いていたのに、こんな場所で出会えるなんてなんたる奇跡だ!! ……んんっ、しかし待てよ? 何だ隣にいる毛もくじゃらの男は!! はぁぁ!!!! あ、あれは狼だ!!? 狼が町の中に侵入して来ている!!! くそぉ〜、さては人間どもを滅ぼすためにやって来たんだな!! はっ! という事は、白雪姫は奴の人質というわけか!! 姫を人質に非道な行いで町の人々を苦しめる気なんだ!! くそっ、なんて非道な狼なんだ!!!!」

 ざわざわざわ、と。騒めきが広がっていきます。狩人の大声に反応した町の人々が、高台にいる白雪姫とオオカミを見つけたのです。

 オオカミ(あ、あいつっ! ぼくらを売りやがったああああああああああ!!!!)

 オオカミは心の中で絶叫します。
 赤ずきんを救出するという共通の目的で結成されたチーム。しかし蓋を開けてみればメンバーが揃いも揃って爆弾を抱えているという始末。結果、爆弾は1人の男の手により、意図的に爆発されたのです。
 町の人々の騒めきは当然、門番たちも反応します。2人の屈強な男が、高台に駆け寄ってくるのをオオカミは気付きました。

 オオカミ(ま、まずい!! このままでは…………!)

 絶体絶命のピンチ。
 オオカミはこの状況を、何とか打破せんと思案を巡らせます。



 *****



 一方その頃、狩人は町の人々が2人に気を取られている間に行動を開始していました。彼は自らの強靭な脚で壁を軽々と飛び越え、城の敷地内に侵入を果たします。着地と同時に壁の向こう側を向き、狩人は嫌な笑みを浮かびました。

 狩人「へっ! マヌケな野郎らだぜ。こんなに簡単に侵入を許しやがってよぉ〜!」

 狩人は馬鹿にしたような表情で、誰に言うでもなく呟きました。彼は壁の向こう側にいる2人の事を想像します。

 狩人「まっ、俺は赤ずきんちゃんさえ自分のものに出来れば、他がどうなろうと知ったこっちゃないからな。白雪姫が少し気掛かりだが、まあ城のお姫様が相手だ。保護されて丁重に扱われるだろうよ。オオカミは処刑されるだろうが、所詮狼なんぞ悪党だし、一匹二匹死のうがどうって事ないだろうぜ。ギャッハハハハ!!」

 狩人という男は、生まれながらに自分に正直で、そしてどこまでも残忍な男でした。だからこそ彼は、罪悪感などを感じることもなく、自分の目的のために最適な手段を実行するのです。

 狩人「さぁて。警備が向こうに気を取られている間に、ちゃっちゃと赤ずきんちゃんを助け出しますかね! 騒ぎがあったなら、しばらくすれば警備も厳重になるだろうからな。多少強引にでも中を探索するか。最悪見つかっても、昨夜の奴さえ現れなきゃ、残りはあのへっぽこ騎士団の連中だけだ。適当に剣を振り回しとけば、鴉みたいにカーカー鳴きながらケツ巻いて逃げて行くだろうよ!」

 ギャッハハハハ!! と、狩人がまた笑います。王国最強の騎士団など、恐るるに足らない。彼にとって、おとぎ騎士団とはそういう存在なのでしょう。



 ??「…………ほぉ、王国を掻き乱す悪党風情が、随分と生意気な口を叩くではないか」



 その瞬間、空気が変わりました。
 狩人はその空気を感じ、「ん?」と首を傾げます。まるで鋭い切っ先を突きつけられたような静寂が、場の空気が一気に静まらせたのです。

 狩人「誰だ」

 狩人は声を発します。そして、狩人がその場で振り返ると、そこに『彼ら』が立っていました。白い鎧を纏った騎士たち。紅い模様が描かれた立派で過剰に目立つその鎧を着た連中を、狩人はよく知っていました。
 彼らは『おとぎ騎士団』。かつて狩人も所属していた、おとぎの国を護る最強の騎士たちです。

 団長「久しいな、天才騎士よ。いや、今は『狩人』と呼ばれているのだったか?」
 狩人「だ、団長!?」

 次回、第8話「狩人と天才騎士」。ご期待ください。

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