公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

結婚式(3)




「――?」

 私は、彼の顔色が優れない事にすぐに気が付く。
 
「スペンサー?」
「――いや、何でもない。それよりも、すぐに着替えを……」

 これからパーティがあるので、ウェディングドレス以外に着替えることになる。
 その事に関して彼は口にするけど途中で口を閉じると、口元に手を当てながら周囲を見渡す。
 何か思案しているようだけど……。
 もしかして私の体調を気遣っている?

「体の方は大丈夫だから」

 私は、通路の先で待っているエリンの方を一瞥したあと――、

「エリンに着付けを手伝ってもらうから」
「そういう問題では……」
「何かあったの?」
「俺も一緒に付いていく」
「そんなに私のことが心配なの? 大丈夫だから! スペンサーも着替えないといけないのでしょう?」
「……分かった。くれぐれも気を付けるようにな」
「気を付けるって……。そんなに体の心配をしなくても大丈夫よ? 病気じゃないんだから」

 私の言葉に彼は頭に手を当てながら何か言いたそうな素振りを見せる。
 だけど、何も言わずに少し離れていた所に立っていた私専属の護衛の女性騎士を呼びつけると、私から少し離れて何か指示を出しているようで――。

「ユウティーシア様。スペンサー様より、少し近くでの護衛を仰せつかりました」
「――え?」

 少し過保護にも程がない!?
 子供が、お腹の中に居ると言っても行動が阻害されるほどじゃないんだけど?

「スペンサー?」
「何かあったら大変だからな。何かあったらすぐに対処できるように少し近くに騎士を置いておくように。それと決して一人で行動することは避けるように。分かったな?」

 彼に近づいて話しかけたら、深刻そうな表情で口早に答えてくると私の頭を撫でて新郎の部屋があるであろう方向へと向かってしまう。

「ねえ?」
「申し訳ありません。ユウティーシア様の体調を考えてとの事ですので」

 詳しい話を聞こうとしたら、女性騎士から定形の回答文章のような答えが返ってくる。
 こうなると、話を聞き出すのは厳しい。
 何よりパーティまでの時間を考えると殿方は問題ないかも知れないけど、女性は仕度に時間が掛かってしまう。

「――分かったわ」

 ここは引き下がるしかない。
 頷き、エリンの姿が見える方向へ歩く。

「エリン」
「ユウティーシア様。パーティの御召し物の用意は整っております。すぐにお着換えを――」
「ええ、お願いね」

 エリンと共に――、傍らには女性騎士を一人連れて部屋に入る。
 中には侍女見習いが3人待っていて、すぐにパーティ用のドレスへの着付けが始まり、短い時間で着替えが終わった。

 身嗜みを確認していた所で扉がノックされる。

「スペンサーだ」
「あれ?」

 私は思わず首を傾げてしまう。
 何故なら、事前の打ち合わせでは彼と落ち合うのは大広間の王族専用の部屋前だったのだから。

「開けてもらえるかしら?」
「はい」

 頷くエリンが扉に手を掛けると同時に、両開きの扉が外側から開け放たれた。
 室内には、男性騎士が5人に女性騎士が3人突入と言わんばかりの様子で入ってきてエリンを取り囲む。

「エリン、お前に聞きたいことがある」

 静かに感情を押し殺したような声でスペンサーが言葉を口にした。





コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品