公爵令嬢は結婚したくない!
結婚式(2)
――トントン
エリンと会話中に、扉がノックされる音が室内に響き渡るとエリンが無言で扉の前に移動し、扉を小さく開け何やら会話をして――。
「ユウティーシア様、シュトロハイム公爵夫妻の用意も整ったとのことです」
「そう。分かったわ」
椅子から立ち上がりエリンに扉を開けてもらい、式場へと向かう。
教会の式場へと繋がる扉の前にはお父様が立っていて――、私を見ると小さく咳払いをすると――。
「ずいぶんと……あれだな……」
「似合ってない?」
「そんなことはない……」
私の方を一目みたあと、お父様は顔を此方に向けることはなく腕を差し出してくる。
「ユウティーシア様、こちらを――」
「これは……」
エリンが差し出してきたのは黄色い花で作られたブーケ。
知識では知っては居たけれど、こちらの――、アガルタの世界でもブーケがある事に内心驚きつつも受け取る。
「エリン、行ってくるわね」
「いってらっしゃいませ」
私は、お父様が差し出してきた肘に手を添えると、ブーケを臍の位置で持ったまま、お父様にエスコートしてもらうようにして式場へと続く――、』開かれた扉へと一歩踏みだす。
式場へ入った瞬間、最初に気が付いたのは、その人の多さ。
少なく見積もっても1000人近くはいる。
それらが全て主要な国の要人だと考えると、今回の結婚式は他国も注目しているというのが否応なしに分かってしまう。
「周りを見ないように」
「はい」
私は、目の前を見てまっすぐに赤い絨毯――、バージンロードをゆっくりとお父様の歩き方に合わせて歩く。
そして――、祭壇前でお父様から離れ――、スペンサーの隣に立つ。
そこで私はふと疑問に思う。
アルドーラ公国では基本的にリメイラール教会とは仲が悪い。
つまり、リメイラール教会とは違った形で式を挙げる可能性がある?
そうなると、私はアプリコット女史から教わった結婚式の方法以外知らないから……。
少し不安に思っていると、聖書の朗読が始まる。
内容は、リメイラール教会の教義そのもので――、内心首を傾げていると指輪の交換に移る。
それぞれの指輪が運ばれてきて、
「ユウティーシア」
愛称ではなく、私のフルネームを彼は呼んでくる。
そう、これは略式ではなく国家間の政治的意味合いも持つ結婚式。
キチンとしないといけない。
だからこそ、数百万もの信徒を持つリメイラール教会の教義に則っているのかも知れない。
薬指に結婚指輪を付けてもらったあと、同じように私の実家が用意してくれた指輪を彼の薬指に通す。
そのあとはベールを上げキスをし――、牧師の方が結婚を宣言したあと結婚証明書に署名をする。
そして――、牧師の方が閉式を告げたところで、彼が差し出してきた肘に手を添え――。共にバージンロードを歩いて退場した。
扉が閉まったところで――。
「すごく緊張した……」
「これからは立食形式のパーティがある。本番はこれからだぞ?」
「それはそうだけど……」
少し休みたいという気持ちはある。
「それと紋章官の手配はつけておいた。一応、身重だという事は、他国には伏せているが、何か体調不良があれば俺がサポートするから言ってくれ」
「ありがとう。そういえば、私が緊張するかもしれないってお香を用意しておいてくれたのよね?」
「お香?」
「うん。エリンがね、カモミールのお香だって言っていたの。スペンサーが手配してくたって――」
「俺が?」
不思議そうな表情をするスペンサー。
私、何かおかしなことを言った?
「どうかしたの?」
「いや――、ティアはカモミールの効果を知っているか?」
「たしか気持ちを落ち着かせる効果があるって……」
「そうか……」
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