公爵令嬢は結婚したくない!
婚姻式(9)
それから細かい話が続く。
体感時間としては2時間ほど掛かったと思う。
「それでは婚姻式については以上と言う事でよいかな?」
「そうですね」
フィンデル大公とお父様は互いに手を取り合う。
これで一応は終わったと言う事になるらしい?
この世界での貴族の婚姻式というのは、私はよくは分からないけど、張り詰めていた空気が弛緩したことから終わったと思う。
「ティア。結婚してからは大変だと思うが頑張るんだぞ?」
「はい。お父様」
フィンデル大公の前なのか社交的な意味合いを込めて端的に語り掛けてくるお父様。
「それと――。スペンサー・ド・ハクア公爵殿」
「はい」
お父様の言葉に佇まいを正すスペンサー。
「娘を――、ティアを宜しくお願いします。色々と破天荒な所がある娘ですが……」
「そんな事はありません。彼女は、素晴らしい女性です。私の方こそ、これからご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」
その彼の言葉に、お父様は無言で頷くと立ち上がる。
それに続くようにしてお母様もソファーから立つとお父様と一緒に部屋から出ていく。
殆ど自らの意見を言わなかったお母様は、それでもずっとスペンサーを見ていた。
「内乱を仲裁した時よりも疲れた……」
両親が出ていき部屋の扉が閉まったところでスペンサーが深く溜息をつくと私の肩に手を回し引き寄せてくる。
突然の事に、そのまま彼の腕の中に抱かれる形となってしまい――。
「婚姻式が上手くいってよかった。シュトロハイム公爵夫人に、ずっと見られていて何時破談になるのかと肝を冷やした」
「――え?」
今までの流れから結婚は決まっているはずなのに破談って……。
「どうして? お父様もお母様も、私とスペンサーの結婚に関しては承諾してくれていたのよ? それなのに、破談になる訳がないわ」
「少しでもティアがアルドーラ国内で優遇されるようにとシュトロハイム公爵は交渉をしていたんだ。公爵家なのに側室や妾は取らないようにと約束を結ばされただろう?」
「そういえば……」
「あとは夫に不義があるなら即時、帰国させるしアルドーラ公国の王位継承権を破棄させるという話もしていた。それらを、父上に飲ませたのだから大したものだよ」
――え? でも、それって普通のことじゃ?
私という妻が居るのに、妾や側室を取るなんて私は絶対に嫌だし――。
「そうなのね……」
「ああ、だから――」
「飲まない理由なぞ、どこにもないであろう?」
「フィンデル大公様」
「これからは、義父でよい」
「はい。お義父様」
「うむ。――して、レイネシアよ。いつまで、不機嫌な顔をしているのだ?」
「――分かっています! ――で、でも! お兄様を……」
やっぱり私がスペンサーと結婚する事を認めていないみたいで、フィンデル大公と話している途中でキッ! と、私を睨みつけてくる。
簡単に割り切れる物ではないというのは、理解はしている。
だけど、そこは呑み込んでほしい。
「――さて、結婚披露宴の日取りだが、バルザック殿と話した内容で進めようと思う。スペンサー、分かっておるな?」
「はい。3週間後の結婚披露宴について急ぎ用意を致します」
「それとレイネシア。此度は、儂の後に祝辞を述べて貰いたいと思うが、どうだ?」
「――そ、それは!?」
てっきり祝辞は、フィンデル大公がするばかりだと思っていたのに意外。
新しい貴族家の設立と、国同士の結婚に近い今回の結婚披露宴はただの結婚式ではなく国同士の友好を諸外国に知らしめる国政でもある。
それも両国。
アガルタの世界でも有数の国家として上り詰めたリースノット王国と、戦争になりかねたアルドーラ公国との和平と友好の象徴。
それを結び付けた両家の結婚披露宴の祝辞を述べるのだから――、それは……。
「私がですか?」
「うむ。そろそろ本格的に国政に参加してもよい頃合いだからの」
「分かりました……」
未来の大公が決まった瞬間。
それでも――、やはりレイネシア様の表情は沈んだままで。
「ユウティーシアさん」
唐突に、私の名前を呼んでくるレイネシア様。
「あとで少しお話があるのだけれど宜しいかしら?」
「は、はい」
ここで断るという選択肢が取れる訳もなく私は首肯した。
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