公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

婚姻式(8)




 私は、お父様とフィンデル大公との話を聞きながらスペンサーの方を見る。
 彼の視線は、お父様に向けられていて私の視線に気が付くことはないけれど……。
 
「それでは、ハクア公爵家に娘が嫁ぐという形になるのですね」
「そうなる」

 なるほど……。
 そうなると、私の名前はユウティーシア・フォン・ハクア? になるのかな?

「――して、ここからは本題ですが……」

 お父様の言葉に室内がピンッ! と、張り詰める。
 何だかフィンデル大公とお父様だけではなく、お母様やリーズロッテ様までも雰囲気が変わったような……。
 
「ねえ、スペンサー」
「どうかしたのか?」
「えっと、雰囲気が変わったような……」
「そうだな」
「何か知っているの?」

 小さな声で――、私はスペンサーと話をする。

「簡単に言うなら、ティアの子供の事に関してだな」
「私の子供?」
「そうなる。以前に話したと思うが、妹が王位を継いで女王になった後は、妹の子供が王位継承権を持つことはない。王位と言うのは、基本的に男系が世襲している。つまり、次代の王位を持つのは俺とティアの子供だけという事になる」
「あれ? スペンサーって兄弟が結構いたわよね?」
「色々あって俺しか残っていない」
「そうなの?」
「ああ、詳しくは聞かないでくれると助かるが……」
「分かったわ」

 彼の言葉に私は頷く。
 王位継承権を持つ兄弟が失踪――、もしくは生存不明になったと言うのなら何か問題が起きてそうなったというのは想像に難くない。
 
「――ユウティーシア殿の御子なのだが、シュトロハイム公爵家には申し訳ないと思うが次代の――、アルドーラ公国の王位継承権を保持してもらいたい」
「それは、リースノット王国……もしくはシュトロハイム公爵家には口を出すなと言う事でしょうか?」

 フィンデル大公の言葉に、辛辣な答えを返すお父様。
 たしかに、お父様の言い分も分かる。
 現在のシュトロハイム公爵家は、私の妹の存在が消えたことで跡を継ぐ後継者が不在になっているのだ。
 つまり、お父様に何かあればリースノット王国でも王家よりも長い家系を持つシュトロハイム公爵家は嫡子が居ないと言う事で断絶になる可能性がある。
 その事をお父様は憂慮しているのかも知れない。

「そんなことはない。ただ、こちらの方としても国王という責務と直系の血筋というのは今後の事を考えると必要なのだ」
「……」

 その言葉に無言になるお父様。
 正直、私のお腹に居る子供の今後を、結婚もしてない段階から決められても……と、思う。

「スペンサー、こういう事って結構あるの?」
「それなりに」
「そうなのね」

 内心溜息をついてしまう。
 つまり、この世界の婚姻式と言うのは日本でいうところの結納ではなくて――、今後の両家の問題についての話し合い場と言う事らしい。
 そして互いに王位継承権と、シュトロハイム公爵家の家督という譲れない物がある以上、簡単には話し合いが付かないというのは分かってしまう。

「父上」
「スペンサー、どうかしたのか?」
「はい。子供に関してですが、まだ生まれてもおりませんので、この場で決めるのは早急かと思いますが?」
「だからこそだ。こちらの方としても、そこは折れる事は出来ない」

 どうやら駄目な模様。
 ここは私から提案した方が良さそう。

「あの――」
「ティア?」

 あまり政治的な発言は控えた方がいいけれど、ここは私も意見を言っておきたい。
 スペンサーは私を見てきたけれど、構わず言葉を紡ぐ。

「女の身でありながら、申し上げます。まずはアルドーラ公国の王位を守ることが大事だと私は思っています」
「ティア……」

 お父様が、窘めるような目で私を見てくるけど、シュトロハイム公爵家は所詮は貴族に過ぎない。
 だけど、アルドーラ公国の王家は国そのもの。
 王家の存続と貴族の爵位としての家の存続――、どちらが大事なのかと問われれば、それは一目瞭然。

「――ですが、二人目以降の子供に関してはシュトロハイム公爵家の存続を優先すると言う形にしたいと思います」
「――それって……」

 呟きながら意味深な目で私を見てくるリーズロッテ様。
 それとは打って変わって怒りの眼差しを私に向けてくるレイネシア様。
 レイネシア様が怒っているのは分かる。
 何故なら、二人目と言う事は、子供を作る行為を――、そういう事をすると安易に言っているのだから。

「分かった……、だが――もう少し恥じらいを持ちなさい」

 溜息交じりにお父様は呟くと、フィンデル大公は満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
 後継ぎの問題がとりあえず解決出来たので、フィンデル大公としては満足なのかも知れない。




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