公爵令嬢は結婚したくない!
婚姻式(2)
「ユウティーシア様、落ち着いてください」
「――え?」
エリンが呆れたような顔をして私を嗜めてくる。
その言葉に私は思わず首を傾げてしまう。
「スペンサー様が来られて貴族街に一緒に行きたいと告げられてから、ずっとユウティーシア様は……」
「……だ、だって! もう一刻も時間が無いのよ? 湯浴みもしてドレスも選ばないといけないし……そ、それに……彼とは初めてのデートだし……」
「はぁ……」
「何か言いたいことでもあるの?」
「もしかして、ユウティーシア様は子供も作られて何度も床を供にしているというのに……」
「そ、そうよ! だって……、スペンサーとは、デートとかってした事ないし……」
「ユウティーシア様良いですか? 殿方と二人きりで居る時点で、それはデートに近い物なのです」
「――そ、そうなの!?」
「はい。そうです」
「……で! でも……。やっぱり、ほら! きちんと誘われるのは初めてだから……」
「そうですか。それでは、まずは湯浴みをして体を磨くとしましょう」
エリンが溜息交じりに呟くと手を叩く。
すると邸宅内で仕事をしている事をよく見かけるメイドが2人入ってくる。
手を借りて沐浴をしたあとは、外行きの動き安いドレスを着せてもらう。
髪を結ってもらった後は、化粧を終える。
「どうでしょうか?」
「えっと、スペンサーは気にいってくれるかしら?」
エリンの問いかけに私は、鏡の前で桜色の口紅を塗られた自分の唇を見ながら呟く。
「本日は、明るい色のドレスを選んでおりますので」
たしかにエリンの言う通り黄色のドレスには、濃い口紅は似合わないと思うから良いと思うけど……。
「――で、でも! やっぱりドレスは、もう少し春を意識したりアルドーラ公国の百合の花を模した方がいいような……」
「もう時間がありませんよ……」
エリンの視線は、試着をしたあとのドレスが掛けられているハンガーラックへと向かう。
そこには10着近いドレスが掛けられていて――。
「大丈夫だと思います。スペンサー様は、服装で相手を見て判断される方ではありません」
「それは分かっているけど……」
でも、初めてのデートというデートなのだから、可愛らしい服装でいきたいし……。
「侍女長、スペンサー様が王城よりお戻りになられたそうです」
やっぱり最初に着た鈴蘭の刺繍が縁に描かれているドレスにしようと考えた所で、メイドが室内に入ってくるとエリンに報告していた。
「えっ!? ――もう、そんなに時間が経ったの?」
「はい。――と言う事で装飾品を合わせましょう。お時間がありませんので」
「……は、はい」
ドレスの色に合わせたインペリアルトパーズを加工したネックレスとイヤリングを身に着ける。
黄褐色に近いトパーズは、私の黒髪で引き立つように輝く。
――コンコン
「わわわわわっ!」
「ユウティーシア様、落ち着いてください!」
「お、おおおお、落ち着いているから! おちちゅいているから!」
噛み噛みな状態――。
「ここは素数を数えて落ち着かないと……。に、よん、はち――、これは偶数だよっ!」
「入るぞ」
「スペンサー様! お待ちください! そしてユウティーシア様は、落ち着いて冷静になってください」
「どうしよう! 本当にいいの? この服装でいいの? 私は良いと思うけど、スペンサーは可愛いって言ってくれるかしら? ねえ? 大丈夫? ねえ?」
「はぁ……」
「ちょっ! え、エリン! 手を引っ張らないで!」
私を化粧台の前から立たせるとエリンが私の手を引っ張って通路へと繋がる扉の方へと歩いていく。
そして扉を開け――、私の後ろに回ると背中を軽く押してきた。
思わず前の方によろけてしまい――、立っていた彼に抱き着くような形で倒れ込んでしまう。
スペンサーは、私の体を難なく受け止めると――、「ティア、綺麗だ」と、呟いてくる。
その言葉に私は、意識してなくても顔を真っ赤にしてしまい表情を見せたくないのでギュッと彼の体に両手を回し俯いたまま抱き着く。
「ティアは、どうかしたのか?」
「照れているだけかと――。スペンサー様、ユウティーシア様の御準備は出来ましたので後はよろしくお願いします」
「ああ、分った」
彼は私を抱き上げると歩き出す。
お姫様抱っこされると、顔を隠す事も出来ずに私が顔を赤くしているのを見られてしまう。
恥ずかしさのあまり両手で隠そうとするけど……。
接吻で先手を打たれてしまい彼に体を預ける形になってしまった。
そのまま馬車まで運ばれたあとは――、彼の横に座る形で馬車は貴族街に向けて走りだす。
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