公爵令嬢は結婚したくない!
和解(10)エレンシアside
「ティア?」
娘の愛称を呼ぶけれども娘は「んっ……」と小さく唸るだけで何の反応も示さない。
「眠いのね」
娘は、私と夫の出会いや結婚について聞いていたけれど疲れてしまったのかウトウトとしたところで寝てしまった。
私は、そんな娘の頭を撫でたあと――、娘の黒髪を手に取る。
アガルタの世界では珍しい黒い髪色。
最初は、シュトロハイム公爵家の親戚筋から不貞を疑われたこともあった。
魔力の質の有無で血縁関係が分かるという事から救われたけれども……。
「あの子……」
私は思わず思い出す。
自らこそがシュトロハイム公爵家令嬢と告げていた銀髪赤眼になった時のティア。
私と同じ髪色と目をしていた。
だけれども根本的な部分では、私の娘ではないと何となくだけれど気が付いていた。
やはり、私の娘は――、この子以外にはいない。
お腹を痛めて産んだ愛おしい子。
頭を撫でていると、娘は私に体を寄せてくる。
その途端、何とも言えない幸せな気持ちが心の奥底から湧き上がってきた。
それと同時に、娘を利用して実家の男爵家に利益を齎そうと考えていた自分自身がとても愚かしく思えてしまってならない。
どうして、私は娘の幸せを願っていなかったのか。
本当に駄目な母親で――、馬鹿だった。
「貴女の人生は貴女の物なのにね……」
そう――、子供には子供の人生がある。
それを私は、ずっと縛られていて気が付かずに、その鎖で娘を縛っていた。
家の為、貴族としてと……、それが――、どれだけの娘の重荷になっていたのかと考えるだけで私は後悔せずにはいられない。
これからは娘のことを考えていこうと思う。
それにしても……、こんなに行動力のある娘とは思わなかった。
隣国に嫁ぐことになるなんて――、しかも既に子供までお腹にいると聞かされた時には、さすがに私は驚いてしまった。
「結婚は、早めにする必要があるわよね」
早く式を上げないといけない。
少なくとも貴族の間では、夫婦になる前に子供が出来ることは非常識をされているから。
私はベッドから降りて部屋から出る。
部屋の外には侍女が立っていて私と目が合うと体を硬直させてしまう。
「少しいいかしら?」
「――は、はい」
「明日の朝一番に国元へ帰れるように手配をお願いできる?」
「わ、わかりました!」
足早に去っていく侍女の後ろ姿を見送ったあと、私はベッドに戻る。
まずは結婚式を早めに行えるように夫に進言するとしましょう。
少なくともスペンサーという人物が公爵家を襲名するという事は、貴族社会に娘は居続けることになるのだから、変な憶測が作られる状況は生み出さない方がいい。
「そうなると……」
スペンサーという人物に拉致されたという話も何とかしないといけないわね。
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