公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

和解(6)




「コルク・ザルトって、リメイラール教会の?」
「そう。リメイラール教会は、神代文明時代の遺物であるエアリアルブレードを持っているから」
「エアリアルブレード?」

 私は、聞きなれない言葉に首を傾げる。

「そう、神代文明時代に作られた物になるわね。空間を切り裂いて空間跳躍を行うことが出来るのよね」
「そんなものが……」

 それよりも空間跳躍って……。
 神代文明というのは、どこまで技術力が進んでいたのか――。

「えっと――」

 それよりも……。

「どうしてユウティーシアさんは、そんなことを知っているんですか? 100年前に来られたんですよね?」
「えっと……、そうね……」

 私は疑問に思い彼女に問いかけるけど、彼女は視線を明後日の方向へ向けてしまう。
 何かあったような素振りな感じを受けるけど……。

「ほ、ほら! 一万年以上も生きていると色々とあるのよね!」
「……は、はい」

 何故か分からないけど、あまり突っ込んではいけない気がする。
 そもそも、いまは邸宅内に置かれていた石碑の問題について話をしていたので、その対策さえ取れればいいかな?
 でも、そうするとコルク・ザルトさんと会う必要があるけど……。

「正直言いますと苦手です……」

 色々と怒られたりしたし、あまり良い感情はお互い持っていないと思うから。

「もしかして、貴女もリメイラール教会の人間は苦手なのかしら?」
「えっと……」

 リメイラール教会の人間が苦手というよりも、コルク・ザルトという男性が苦手な訳で――、でも……それはリメイラール教会の人が苦手という形にもなりそう。

「そんな感じです」
「そうよね。リメイラール教会は色々とやらかしているものね」

 感慨深く溜息をつくユウティーシアさんは……そう呟く。

「でも、どちらにしても会わないと駄目ですよね? 石碑を書いたのは誰なのか分からない現状では――」
「そうね。貴女が私に協力してくれるのなら、私も出来る限り助言もするし力も貸すわ」

 ユウティーシアさんは、銀色に輝く髪を手で弄りながら答えてくる。

「それと、貴女が発見した魔法の運用方法だけれど」
「それって――、日本の漢字を頭の中で連想して事象を想像して発動させる魔法の事ですか?」
「そう。私は日本という国は殆ど知らないわ。あの人が教えてくれた範囲の事しか知らないもの。だけど、この世界を作り構築したのは日本人であり、あの人なの。そして、この世界の理は日本人の言語が基準として作られているわ。だから、魔法発動に必要な物は……本来であれば日本の言語に他ならないの。だから――、現在、本来の意味での魔法を使えるのは貴女一人と言う事になるわ。そして、それは誰でも利用できるの。文字の意味と、起きる現象の想像が紐づくことが出来るならね」
「……それって」

 かなり危険な事なのでは?

「貴女が危惧した通り、貴女が発見した魔法の運用方法は誰にも教えてはいけないわ。それは世界各国のパワーバランスを変える事になりかねないから。それと――、そのことはスペンサーという男にも教えては駄目」
「――え?」
「貴女の思い人であっても教えたらいけないという事は念頭に置いておかないと駄目よ? どこから話が漏れるか分からないのだから。その結果、多くの人が不幸になるのを貴女が望むのなら止めはしないけれど……」

 その言葉に私は首を振る。
 
「そんな事は望んでいません」
「そう。それならいいけど……、気を付けてね」
「はい。それでは――」

 途中まで言いかけたところで周囲の景色が色彩を失って輪郭を失っていくと、「そろそろ時間のようね」と、そうユウティーシアさんは呟いたあと、「起きたらエレンシアとの話し合いが待っているのだからがんばってね」と、手を振ってきた。

 そこで、私の視界は暗転した。


 

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