公爵令嬢は結婚したくない!
和解(1)
――アルドーラ公国、その王城の一室――、そこは、お母様に用意された賓客室。
現在、部屋には私と、スペンサー、そしてお母様の3人だけが居た。
私が元の体に戻ったあと、目撃者が幸い居なかったことから大事になる前に、近くの部屋に移動した。
そこがお母様の部屋。
――コンコン
部屋で椅子に座っていたところで、賓客室の――、お母様が使っている部屋の扉が外からノックされる。
「スペンサー」
「分かっている」
椅子に座っていた彼が立ち上がると扉を開けて、侍女が持ってきた神代文明時代に作られた白い杖を受け取る。
「しばらくは、誰も部屋には近づけないように」
「かしこまりました」
侍女に、それだけ言うと扉を閉めた彼は私の傍らまで来る。
「スペンサー、ありがとう」
「気にするな」
私は、彼から杖を受け取る。
それと同時に杖に魔力を供給し回復魔法を発動。
二人の怪我を瞬時に治す。
「どう? 痛いところとかない?」
「ああ、大丈夫だ」
「これは、すごいわね。それよりも――」
お母様が、私の方を見てくる。
その視線は、何が起きているのか話せといっているようで――。
「えっと……、まずはお茶から――」
私は人数分の紅茶を用意し――、椅子に座ったあと2人の目を見てから、大きく息を吸ってから吐き――、気持ちを落ち着かせる。
「それでは、私が分かっている範囲で説明します」
「それは、あの手紙や魔法書以外の……と、いうことか?」
私はスペンサーの問いかけに、「はい」と、答える。
「……わ、私は――、本物のユウティーシア・フォン・シュトロハイムではありません」
「本物ではない? どういうことだ?」
「ティア、どういうことなの?」
「お母様は知っていると思いますが、お母様が子供を宿すことが出来たのは、ユウティーシア・ド・ローランドという過去に栄えた国の女性の残留思念が関わっていたからです。――そして、本来はお父様とお母様の間には子供は生まれなかった。――でも、ユウティーシア・ド・ローランドという人物には、どうしても願っていることがありました。だから、彼女はお母様と契約を交わし私が産まれた」
私の説明にスペンサーが、「だが、君がユウティーシア・フォン・シュトロハイムに代わりはないんだろう?」と、確認してくる。
そんな彼の言葉に私は首を振る。
「生まれてくる子供には、魂が必要でした。何故なら、ユウティーシア・ド・ローランドは、残留思念でしたので体を動かす為のキャパシティが足りませんでした。だから、そのキャパシティを埋める為に疑似人格が必要になり、その結果、作られたのが私です……。だから、私はユウティーシア・フォン・シュトロハイムであってユウティーシア・フォン・シュトロハイムではないんです。あくまでも主人格は、スペンサーやお母様が会った銀髪赤眼の女性です」
「――だ、だが……、ティアは戻ってきたんだろう?」
「はい」
私は小さく首肯する。
それと同時に罪悪感が心の中に生まれる。
お母様にも誰にも言えない。
むしろ、彼には――、スペンサーには絶対に知られたくない。
私の人格のベースとなっている記憶は、男の――、草薙雄哉の記憶を媒体にしたコピーに過ぎないということを――。
――もし、知られたら嫌われてしまう。
きっと嫌われたら私は――。
だから言えない。
「そうか……。だが――、契約を交わしてまで体を欲したという事は何かしたい事があっての事なんだろう?」
「はい。彼女は、元の世界に戻ることを望んでいます」
「元の世界?」
「神代文明時代よりも前の世界に戻りたいと願っていて――、その為には地球に向かう必要があるとの事です」
「地球?」
コクリと私は頷く。
「天の川銀河に属する恒星系の一つ、太陽系第三惑星を地球と言います」
「天の川銀河? それは、どこかの国の名前なのか?」
スペンサーの質問に私は首を振った。
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