公爵令嬢は結婚したくない!
母娘(6)エレンシアside
それは、まるで私の生きてきた意味を完全に否定してくるようでいて――。
「貴方に! 貴方に私の何が分かるというの!」
思わず苛立ちから声を荒げてしまう。
目の前の男は、何も分かっていない。
「リースノット王国は、今でこそ産業も発達し周囲の大国とも呼ばれる国々と対等に肩を並べるまでに成長したわ――、でも! 昔のリースノット王国は、本当に貧しくて私が長女として産まれた男爵家もとても貧しくて……、与えられていた小さな領地はやせ細っていたの。だから、娘には――」
「王族に嫁いでもらい何一つ不自由のない生活をしてもらいたいと?」
「――そ、そうよ!」
「それは、王族の連中に人形のように使われても……、自由を奪われてもという制約を課した上でも良いと思っているんですか?」
「それは……」
「エレンシア殿、あなたは本当に自分の娘の幸せだけを願って、リースノット王国の――、王家に嫁がせようと考えて居るのですか? その結果、傀儡のような人間になったとしても、それが幸せだと考えているのですか?」
スペンサーという男が、迷いが生じた私の心に言葉を投げかけてくる。
「だけど……」
娘が王族に嫁ぐことが出来たのなら――、お母様が必死に守った男爵家は、公爵家に嫁いだ時よりも恩恵を得られることは確実で――。
男爵家が飛躍する為としか思えないタイミングで――、100年ぶりに王族の血を引く女児が生まれたのも、それを暗示しているとしか思えなくて……。
――だから……。
「子供は、親の夢を叶える道具ではありません」
その言葉に、私はハッ! として顔を上げる。
「私にも母親は居りました。――ですが、いまはすでに鬼籍に入っています。母からは、国の民を守りなさいと――、王族としての責務を果たすようにと事切れる間際に言われました。ですが――」
男は、私を真っ直ぐに見てくる。
「それは、呪いでもあると思うのです。何かを為す為に誰かを犠牲にする事のどこに正義があるのでしょうか? どこに大義があるのでしょうか?」
「……」
「エレンシア殿の大義は、どこにあるのですか? それは、本当に子供の為だと胸を張って言えますか?」
大儀は、家を守る事――。
そして、お母様が生きていた頃に大事にしていた男爵家を反映させること。
「…………ああっ」
私は、何て愚かなことを……。
自分の家のことを――、お母様が守ろうとした男爵家のことばかりを考えていて、本当は娘のことを何も考えていなかった。
娘のことを――、ティアのことが何も見えていなかった、
「そうだったのね……」
「エレンシア殿?」
「いいえ。貴方の言う通りだと思ったのよ」
体から力が抜けてしまう。
それと共に、桜と教えてもらった大樹に体を預けた。
「私は、娘のためだと言い訳をしながら、まったく別のことを考えていたのね」
突然、目の前に立ち込めていた霧が晴れたように思考がクリアになる。
そして――。
「お母様……」
声が――、弱々しいけど、それは確かに娘の声で――、視線を向けるとそこには娘が立っていた。
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