公爵令嬢は結婚したくない!
母娘(5)エレンシアside
あまりにも突拍子もない話に私は口元に人差し指を当てながら笑みを浮かべてしまう。
彼は、同情で私の気を引こうとしているのが分かってしまったから。
「いえ、そのようなことは考えてはいません」
――そのように考えていた私の考えを彼は否定してくる。
それなら何のために身の上話をしてきたのか? と、私は考えてしまうけど……。
「ただ――」
男は、私の方を真っ直ぐに見てくると口を開く。
「母娘が、このままでいいのかと私は疑問に思っているのです」
「何を言いたいの? 貴方が、娘を誑かしたから! こんな状況に陥っているという事を理解していないのかしら?」
この男と会うことが無ければ娘は……。
娘は、そのままクラウス殿下に嫁いで王妃になり――、王家からの恩恵を娘と実家は受けていたというのに……。
そう思ってしまうと、心境穏やかでは――、とてもいられない。
「私は、ティアを誑かしたりはしていません」
「何をぬけぬけと!」
苛立ちが募る。
それは言葉の節々に現れる。
とても貴族の淑女たる話し方ではない。
それは自覚している……、だけど――、我慢が出来ない。
「エレンシア殿、貴女はティアをティアとして見ていますか?」
「何を言っているの? 娘は娘に決まっているでしょう?」
私がお腹を痛めて産んだ子なのだから、娘に決まっているのに……、この男は何を言っているのかしら?
理解に苦しむ。
「それなら、何故――、ティアのことを出来損ないと発言されたのですか?」
「それは……、貴族の令嬢として――」
「それが、親に言われて子がどう思うのかを考えずにですか?」
「……娘は貴族なのよ? それも、リースノット王国の中でも最も古い家系を持つシュトロハイム公爵家の血を引いているの! 貴族には、貴族としての役割が! 責務があるのよ! それは、貴族の――、王位継承権を持つ貴方になら分かるでしょう?」
「そうですね……」
男は――、スペンサーは同意を示しつつも眉を下げつつ頭を左右にふる。
それは、何かしらを否定しているようにも、迷いを振り切るようにも見えてしまう。
「貴族――、貴族とは一体何なのでしょうか?」
「それは民を統率して国を運営することを許された者の事でしょう?」
何故、そんなことを聞いてくるのか。
男の真意が測りかねてしまう。
「エレンシア殿」
男は意を決した表情をしていた。
「私は、以前に失態を犯したことがあります。それは、自国の為だと良い自国の国民――、そして利益のために一人の女性を拉致しようとしたことです」
目の前の男は、自らの罪状を口上する。
それは、否定ではなく自らが行ったと肯定する言質。
「それは、アルドーラ公国の利益を考える貴族なら間違ってはいないのでしょう。――ですが、それでは巻き込まれた者はどうなると思いますか? 他者の勝手な考えで――、巻き込まれて利用される。それは、一人の人間として見た場合、間違ってはいませんか?」
「それは、私が娘に課している貴族の令嬢として生きるという事を否定しているのかしら?」
「はい」
ハッキリと目の前の男は、私の考えを否定してきた。
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