公爵令嬢は結婚したくない!
母娘(1)
スペンサーに、お母様との話し合いの場を設けてもらう為、お願いしてから3日が経過。
現在、私は滞在しているアルドーラ公国の公都ルクセンブルグの貴族街の館から王城へと馬車で移動している。
「ティア、大丈夫か?」
「う、うん……」
私は頷きながらも自分の体の変化に戸惑っていた。
今までは、乗り物酔いになったことなんてないのに……。
やっぱり少なからずお母様と、面と向かって初めて話し合いをするという重圧があるのかも知れない。
馬車は、王城に到着し――、彼にエスコートされる形で馬車から降りて王城内に足を踏み入れる。
何人もの兵士やメイドの女性が私へ好奇の視線を向けてきている事にすぐに気が付く。
「気にすることは無い」
スペンサーは、短く語ってくるけど……。
「やっぱり謁見の間のことよね……」
「……」
彼は困った表情を見せるだけで無言。
やはり、謁見の間で私が発言した内容は色々と問題があったのだと痛感してしまう。
「あれはティアの本意ではないのだから気にする必要はない」
一呼吸おいてから彼は気にするなと言ってくれる。
だけど……、以前に王城に来た時とは明らかに城の人たちの私を見る目が変わっているのが分かってしまう。
――そう、悪い意味で。
「父上が口留めをしたんだが……」
「謁見の前で起きたことを?」
私の問いかけにスペンサーが頷く。
どうやら、謁見の前での出来事については緘口令が敷かれていたみたい。
――だけど……。
「人の口に戸は立てられないという事なんでしょうね」
「――ん?」
彼が、私の言葉に反応する。
この世界には日本のような諺が存在しないのだから興味を持つのは致し方ないのかも知れない。
「人のうわさや批判を防ぐことができないって意味なの」
「なるほど……」
たしかにな……と、彼は納得したように頷くと共に、どこか沈んだ表情を見せてくる。
私の失態で彼に、そんな落ち込んだ顔をさせるなんて――、と、胸が締め付けられる思いが胸中を駆け巡る。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「どうしてティアが謝る必要があるんだ?」
「だって、私が……」
最後まで言葉を紡ぐことが出来ない。
代わりに体が震えてくる。
それは恐怖から来るもので――。
ルガードの顔が、何度もフラッシュバックするかのように記憶に思い浮かんできたところで、私の体はふらつき足元から力が抜けた。
……冷たい。
それと同時に、私の名前を呼んでくる声が聞こえる。
無言のまま、ゆっくりと瞼を開けると彼が――、スペンサーが心配そうな表情で私を見つめてきていた。
「ここは……」
周囲を見渡す。
室内に置かれている調度品などからして賓客室のように見える。
それと共に、私は自分が倒れたという事を思い出す。
「ここは他国の要人用に用意された賓客室になる。君が倒れた傍に、近くには寝かせられる部屋が此処しかなかった」
「そう……なの……ね」
「ごめんなさい。せっかく、お母様との話し合いの場を設けてもらったのに……、台無しにしてしまったわ」
「ティアの体の方が大事だ。それに、シュトロハイム夫人には君が倒れた事についての連絡はしてあるから気にしなくていい」
――コンコン
「スペンサー様。シュトロハイム公爵家エレンシア様がお会いしたいと」
外から、男性の声が聞こえてくる。
「あとで伺うと伝えてくれ」
「それが……」
部屋の外から報告をしてきていた男性の声が言い淀む。
「エレンシア・フォン・シュトロハイムです。失礼致します」
唐突に、お母様の声が聞こえると共に室内に姿を現したのは、私の母親であった。
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