公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

届かない思い(11)




 ――騒めく謁見の間。

 周りのアルドーラ貴族たちは、私達を奇異の目で見てくる。
 だけど、そんな事は――、いまはどうでもいいことで――。

「謁見を中止する! いま、この場に居る者達は現在見た事を他言無用とせよ!」

 どうしたらいいのか――。
 どう言葉に言い表せばいいのか――。
 戸惑っている内に、フィンデル大公様の声が謁見の間に響き渡る。

「明日中に! 再度、謁見を取り扱う! それまでは、余計な憶測などを呼び込まぬように決して、この場で在った事は口にせぬように!」

 王座から立ち上がったフィンデル大公は、謁見の間に参列していた貴族だけでなく兵士達に言葉と行動で告げていた。

「もし! 第三者に事の次第が漏れた場合には厳罰に処する!」

 その言葉に、貴族も兵士も頭を下げると、私達を腫物のように一瞥したあと謁見の間から出ていく。
 そして兵士とフィンデル大公だけになった。

「シュトロハイム公爵殿」
「はい。申し訳ありませんでした。この度は、自国の不始末故――、貴国に迷惑を掛けるような事は、一切は致しません」
「そうではない」

 フィンデル大公の言葉――、その真偽は違うところにあったようで。

「この場で起きたこと――、他国の第一王位継承権を持つ王子が死亡したことは国交に置いて大きな問題になる事は分かっておる。だが――、儂が聞きたいのは、そのことではない。どうやら、シュトロハイム公爵家では、ユウティーシア殿と、お二方の間では何やら確執があるように先ほどの話から見て取れたのでな」

 諭すようにフィンデル大公は呟きながら王座に座る。

「それは……」
「お二方とも、しばらく城に滞在されては如何かな? 国元では、色々と政争に巻き込まれることもあるであろう?」

 二人は、それぞれ顔を合わせると「謝意」を述べていた。
 そんな二人を見ながら、私は張り詰めていた気持ちが途切れて――、謁見の間を見たのを最後に――、意識を手放した。



 ゆっくりと瞼を開けて部屋の中を見渡す。
 そこは、私に宛がわれていた部屋ではなかった。

「ここは……」

 目を擦りながら部屋の中を見渡すと、少しずつ暗闇に目が慣れてくる。
 そこで、ようやく私は自分がどこに居るのかを理解した。
 私が、寝ていた部屋は、公都ルクセンブルグの貴族街に存在するスペンサーの御屋敷。

「私……」

 ルガード様のことを思い出して――、私は思わず口元を手で覆うとベッドから降りてふらつく足で洗面所に向かう。
 そして――、吐いた。

「わたし……、私……」

 記憶が混濁していて、どう考えを纏めていいのか分からなくて――。
 必死に記憶の糸を手繰り寄せて――、記憶を集めて――、私は……、また吐いた。

「ああ……、私……」

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――。
 領地の為だからと、アルドーラ公国の為だからと、ミトンの町の為だからと……。

 ――そして、貴族に生まれたのだから仕方ないと……。

 好きでもない殿方に何度も抱かれて何度も貴族の流儀を教えられて――。
 そこまで考えたところで私は浴室に入り魔法石に手を触れて魔力を込める。
 魔力回路が組み込まれた蛇口からは、お湯が出て浴槽へとお湯を貯めていく。

 

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