公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

届かない思い(3)




「どうかしたの? 貴女、少し変よ? 何かされたのかしら?」

 お母様は、本当に心配そうな表情で私を見てくる。
 
「何もされていないです! それよりも、お母さま! 聞いてください!」
「ティア。そんなに声を荒げてはダメよ? もっと、何時ものように静かに話さないといけないわよ」
「――ッ!」

 自分が愛している殿方の悪口を言われて、無意識に口調が強くなってしまったことは否めない。
 
「お母さま、スペンサー様は優しい方です。私のことを良く考えて守ってくださる――、私なんかにはもったいないほどの殿方です」
「……やっぱり何かされたのね?」
「――え?」
「私が知っている娘は、男が苦手で庇うような性格では無かったわ」
「違います。そんな事は――」
「ティア、貴女のことを産んでから、どれだけの時間を見てきたと思っているの? 最後に海洋国家ルグニカで会った時にも様子がおかしいと思っていたけれど……、国元から離れたのも、あの男に何かされたからなのね?」

 私は頭を左右に振る。

「どうして! そんな言い方をするのですか! スペンサーは、私にとって――、かけがえのない愛する人な――」

 最後まで言葉を口にする前に、頬に痛みを感じた。
 何が起きたのか分からない。
 
 ――ただ、呆然と自分の頬に手を当てながら、お母さまを見つめる。

 そこで、ようやく――、私はお母さまに頬を叩かれた事に気が付く。

「ティア、貴女が敵国の人間に肩入れする気持ちは私には分かりません。――ですが、一つ分かっていることはあります。貴女は、そんな子ではないでしょう? 殿方が苦手だったのでしょう? そんな貴女が、どうして――、あのような王位継承権を剥奪されたような男を庇うのですか?」
「お母様……」
「貴女は、精神魔法に操られやすい体質だと言うのは第二王子エイルの時に判明しています。貴女は、国元から出る直前に、スペンサーという男に何かをされた――、だから海洋国家ルグニカの一都市ミトンで、アルドーラ公国が有利になるように動いていたのでしょう?」
「違います。私は――」
「見苦しい言い訳は止しなさい! 貴族に生まれた女として見苦しいだけです」

 強い口調――。
 まるで私の話を聞いてくれようとはしてくれない。

「良く聞きなさい。貴女は、アルドーラ公国のスペンサーに操られていて国元を離れてアルドーラ公国の為に動いていた。そして婚姻まで結ばされたの。いいわね?」
「……で、でも――」
「ティア、貴女が一緒にリースノット王国に帰らずアルドーラ公国に嫁ぐような事になればリースノット王国の王室は体面上、経済制裁と軍事行動を起こさなくてはならなくなるわ」
「ど、どうして……」

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