公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

届かない思い(1)




「――え? リースノット王国からですか?」

 彼の言葉に私は思わず息が詰まる。
 何時かは、私がアルドーラ公国に来ていると言う事が祖国に伝われるとは思っていたけれど、まだ滞在してから2週間ほどしか経過していない。
 それなのに、どうして――、私がアルドーラ公国に身を寄せていることを知っているのか……。

「スペンサー。そ、それで……。フィンデル大公様に連絡が行ったということは……」
「現在、シュトロハイム公爵夫妻と何名かのお供が城に滞在しているようだ」
「お父様とお母さまが……」
「どうする?」
「……行くしかないですよね……」
「そうだな」

 自分で思っていたよりも沈んだ声が口から漏れ出してしまう。
 そして、そんな私の言葉に、彼も眉を顰めて同意してくる――、否! 同意せざるを得ない。
 何故なら、アルドーラ公国内の貴族には、知られてはいないけど――、リースノット王国と私の関係性を知っている人は殆どいないのだから。
 ここで、私が、実の両親でありリースノット王国からの使者という立場を取っている人間を会わなければどうなるのか?
 
 せっかくアルドーラ公国内の秩序などが回復してきたと言うのに――、余計な火種が生まれてしまう事になりかねない。
 
「一度、お父様とお母さまに会って話してみます」
「大丈夫なのか?」
「……わかりません」

 正直なところ、私は両親からは愛情を向けられた記憶がない。
 いつもお父様は、難しい顔をしていたし――、お母さまは貴族の家に生まれたのだから、家の繁栄の為に嫁ぐのは当たり前だと言っていたから。

 本当に、私の幸せを願ってくれているのは……。
 
「ティア?」

 彼の腕を無意識の内にギュッと両手で抱きしめていた。
 
「大丈夫です。きっと、お父様もお母様も分かってくれるはずです」

 それに、両親が来ていると言う事は妹のアリシアの事も聞くことが出来る。
 逆に好機でもあると言えるから。

「分かった。すぐに城へ向かう準備をしよう。待たせるのは良くはないからな」
「分かりました」

 彼が部屋から出て行ったあと、入れ替わるようにしてエリンさんが入ってくる。

「ユウティーシア様」
「分かっています。湯浴みの用意をお願いします。それと登城致しますのでドレスの用意をお願いします」
「畏まりました」

 何時もは一人で入る湯浴みであったけれど、今日は何人かの付き人に体を洗ってもらう。
 その後は、用意されたドレスの着付け、そして髪を結えてもらい用意が全て終わった頃にはお昼を近く。

「それでは行ってくるわね」
「行ってらっしゃいませ」

 屋敷の執事の方やメイドの方々に見送られて屋敷から馬車で城まで向かう。

「ユウティーシア様。本日は、ご両親がご公務でアルドーラ公国に来ていらっしゃると――」
「ええ。そうね……」
「もう城下町は、その話で持ち切りです。リースノット王国と友好関係が結べると――。シュトロハイム公爵家と言えば、最近では急成長しておりますリースノット王国でも国王の右手と目される大貴族ですから――。そんな方が、態々来られているということは、結婚も間近だと話す者もおりますほどで」
「……そんな事になっているの?」
「はい」

 エリンさんが、頷いてくる。
 だけど……。
 私としては、あまり気乗りしない。

 馬車は、初めてアルドーラ城に来た時に停まった場所に停車する。
 そして、すぐに馬車の扉が開く。

「それでは――」

 ただ一人、白亜邸から私専属の付き人として付いてきてくれているエリンさんから馬車を居りていく。
 その後を追うようにして私も馬車から降りる。
 すると、すぐに騎士甲冑を身に着けた女性が近づいてきた。

「お待ちしておりました、ユウティーシア様。スペンサー様から、シュトロハイム公爵夫妻が滞在している場所まで案内するように言い遣っておりますので、ここからは私が、案内させて頂きます」
「ええ、お願いするわね」

 エリンさんを共だって女性騎士の後ろを着いていく。
 城内に入り、5分ほど歩いたところで大きめの扉の中へと通される。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム様、御入場です」 

 どこからか声がしたところで、私は自分が謁見の間に通されたことを知った。
 そして真正面の王座にはフィンデル・ド・アルドーラ――、この国の王が座っているのが見える。
 そしてその横にはスペンサーの姿も……。
 




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