公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(26)




 リーズロッテ様が、私の漏らした言葉に眉を顰めると「ユウティーシアさん、何か問題でも?」と、問いかけてくる。

「――い、いえ……」

 反射的に笑みを浮かべながら言葉を返すけど胸中穏やかではない。
 何せ、無断で国を出てきたばかりかアルドーラ公国の国力増強に力を貸しているのだから。
 それに、お父様やお母さまにも国元へ帰ってくると共にリースノット王国の王家に嫁ぐようにと遠回しに言われている事もあり国元に伝えられることは――。

 そこまで考えたところで、どちらにしても大々的に婚約式をするのだから、遅かれ早かれスペンサーとの婚約の話は国元に届いてしまう。
 それなら、先に先手を打つような形で両親に理解を得た方がいいのかな? とも思ってしまうけど。

「父上、リースノット王国への使者についてですが」
「うむ。何時頃が良いであろうか。なるべく早い段階が良いと思うのだがのう」
「まずは、海洋国家ルグニカで王位を選抜する王位簒奪レース後で宜しいのでは? 他国の王位選抜の問題に我が国やリースノット王国も無関係ではありませんから」

 スペンサーの言葉に私は心の中で首を傾げる。
 どうして、海洋国家ルグニカの王位簒奪レースに、リースノット王国が関係するのか……。

「うむ。ユウティーシア譲」
「はい」
「リースノット王国の王家とシュトロハイム公爵家へ、ユウティーシア譲と儂の息子の婚約の知らせを伝えるのは海洋国家ルグニカの王位簒奪レースが終わってからで問題ないであろうか?」

 ――良かった。

 時間は出来たけど、問題は両親とリースノット王家をどうやって承諾させるかだけど何もいい案が思いつかない。
 何せ、シュトロハイム公爵家の長女として産まれてから殆ど愛情なんて注がれた事なんて無いし、私の役割は王家に嫁いで時期国王の子供を産む為だと強制的に決められていたから。
 だから、私の話なんて殆ど聞いてくれなくて道具としか見られていない。
 そんな私が、他国に嫁ぐと報告したら絶対に怒るに決まっている。

 どうしたら婚姻を認めてもらえるのか考えるけど妙案は浮かばない。
 頭の中は『どうしたら』と言う思考でいっぱいになっていき――。

「ティア」
「あっ――」
 
 唐突に声が聞こえてきたと共に私の体が彼に引き寄せられる。

「父上、ティアは此処のところ寝付けないこともあり疲れているのです。この辺で話を切り上げても宜しいでしょうか?」
「ふむ……、寝付けないか」

 含みのある笑みをフィンデル大公は私とスペンサーに向けてくる。
 それと同時に――。

「ユウティーシアさん、殿方が求めてきたとしても程々にするのですよ?」
「はい……」

 話が一段落着いたとは言い難いけど、何とか大まかな話は終わり私とスペンサーは執務室から出る。
 少し歩いたところで――。

「スペンサー、ごめんなさい」
「気にすることはない。俺だけがティアの事を知っているからな。父上もある程度は察していると思うが――、全てではないからな。とりあえずアルドーラ公国としては、リースノット王国と相互不可侵条約を結びたいと考えている。貿易面も含めると色々と恩恵があるからな。まぁ、それだけじゃなくてな――、やっぱりティアと結婚するのならティアの両親にも納得してもらいたいし祝福もしてもらいたい。ティアだって両親が嫌いな訳ではないんだろう?」

 彼の言葉に私は何も言葉を返せない。
 だって、両親には今まで親として接して貰った事なんて殆どないから。

「――でも、妹には知らせたいと思っています」
「妹?」
「はい。アリシアです。3歳年の離れた私の妹です」
「アリシア……?」
「シュトロハイム公爵家には、ティアしか子供はいなかったはずだが……」
「――え?」

 彼の言葉に私は何の冗談を言っているのかと思ってしまう。

「妹です。私の妹のアリシア・フォン・シュトロハイムです」
「妹と言う言葉の意味は知っている。だが――」

 戸惑った表情をしていたスペンサーが口を開く。

「シュトロハイム公爵家には、ユウティーシアしか子供は居なかったはずだ」
 



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