公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(18)




 紅茶を嗜みながらスペンサーが戻ってくるのを待っていたけれど、昨日の夜の疲れもあり睡魔には勝てず部屋に戻りベッドの上で横になる。



 ――コンコン。

「……んっ……」

 部屋の扉がノックされる音に私は瞼を薄っすらと開ける。
 室内は、すでに薄暗い。
 窓外へと視線を向けると、すでに日は沈んでおり黄昏れ時のようであった。

「どうぞ」

 扉を開けて入ってきたのは付き人のエリンさん。
 彼女は頭を下げたあと――、「エリンです。スペンサー様からの伝言です。今日の御戻りは夜遅くなられると言う事です」と、話してきた。

 だけど……、一瞬、私はエリンさんの言葉が理解できなかった。

「どういうことですか? 何か問題でも起きたのですか?」
「貴族たちとの話し合いの調整で時間が掛かってしまっていると報告がありました」
「そう……なのね……」

 それなら、仕方ないと事だけれど……。
 今日、一緒に出掛けるって約束したのに……。

「ユウティーシア様。本日は邸宅の大浴場の方でゆっくりされては如何でしょうか?」
「そうね。お願いできるかしら?」
「はい。すぐにご用意致します」

 エリンさんが部屋から出ていく。
 しばらくして、彼女が戻ってきたあと邸宅内の浴室へと連れていかれるけど、そこには何十人も一度に入れるほどの大きなお風呂がある。

 人の邸宅内で無理は言えないこともあり、久しぶりに体を他人に洗ってもらったあと、お風呂に浸かる。

「えっと……、あとは大丈夫よ?」
「ユウティーシア様、彼女達はマッサージを担当している者です。長旅でお疲れと言う事もありますが――、スペンサー様のお相手をしていたのですから、きちんと体を労わった方がいいと思いまして手配致しました」

 エリンさんの物言いがすごく露骨に聞こえてしまう。

「そ、そうね……」
「――それに、マッサージをした後に寝るとお肌や健康にもいいのです。殿方も、抱かれる時、その方が好まれるかと――」

 そういう露骨なセールストークはいらないのだけれど……。
 までも、彼に好まれるのならしてもらうのも良いかもしれない。

「お願いできるかしら?」
「――では、すぐにご用意致します」

 浴室から出たあと、マッサージをしてもらい疲れから眠気がポークに達していたところで、部屋まで案内されてベッドの上に横になると、すぐに意識を手放した。



 どのくらいの時間が経過したか分からない。
 だけど、微睡みの中――、自分の体が揺さぶられるのを感じて手を動かすと何か固い物に手のひらが触った。

「ん……っ?」

 手から伝わる感触が良く見知った感じで、私は瞼を開ける。
 すると横にはスペンサーが横になっていて――、右手で腕枕をしていた。

「遅くなってすまない。ティア、待たせてすまなかった。貴族たちの利権調整で時間が掛かってしまった。なるべく急いだつもりなのだが――」

 彼がことの説明をしてくるけど――。

「――ううん……、大丈夫。御仕事、お疲れ様です。スペンサーも疲れているのでしょう?」

 言葉を返しながらも何度か嗅ぐと彼の匂いには幾分か汗が含まれているのが分かる。 
 たぶん、まだお風呂は入ってきていない。

「スペンサー、お風呂は入ってきたのですか?」
「――いや……」

 彼の目が昨日の夜と同じように情欲に染まっているのが一目で分かってしまう。
 そして、そんな事が分かってしまう私も、女性として彼を見ていることが理解出来てしまって少しだけ嬉しい。

「あの……、エリンさんが慎むようにって……」
「そうだな。婚約前なら問題だし、結婚前にするのもな……。ティアが嫌ならしないが?」
「――え? ……で、でも……」

 今日は、一日体が重くて眠かった。
 でも、そんな寂しそうな目で見られると断れない。

  


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品