公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(16)
ローレンシア大陸の南方に位置するアルドーラ公国は、西方に存在する砂漠の小国群であるセイレーン連邦と同じ赤道上に存在していている。
その為、本来ならアルドーラ公国も砂漠とは切って切れないという環境下になるはずだったけれど現実は異なっている。
――それは、アルドーラ公国の北には巨大な山々が聳え立っているという点。
アルドーラ公国の北に存在する山脈は、山脈の北方の海から多くの降雨を蓄え――、雪として――、そして川として――、アルドーラ公国内に無数の巨大な大河を作りあげ大地を潤し続けている。
もちろん北の山脈から流れる川の水温はとても低い。
そして、アルドーラ公国の公都のルクセンブルグは、山裾に位置していることから清涼ある冷たい川の影響もあり、朝方は冷え込んでしまう。
――シーツの擦れる音。
私は、微睡みの中で瞼を微かに開けた。
部屋の中は、窓にカーテンを引いてあることもあり薄暗く、体に疲れを残しながらも私は小さく身動(みじろ)ぎする。
「ティア、どうかしたのか?」
「もう、朝みたいなの」
「そうか……」
「うん。今日、スペンサーは御仕事なの? ――んっ……」
「そうだな。今日は、反対派貴族に根回しをする事があるからな」
「そう……、なのね……」
腕枕されている中、彼は一緒に寝ている私を優しく抱きしめてくると額を接吻してきて――。
「そんな顔をするな。すぐに話を纏めて戻ってくる。午前中には纏めることは出来るはずだ。ティアは、それまで体を休めておくといい」
「うん」
私は、彼に抱き寄せられたまま殿方の裸の胸に手を置きながら頷き返す。
「ティアは、公都ルクセンブルグで見てみたい場所など無いか?」
「ルクセンブルグで?」
私の問いかけに、彼は頷いてくるけれど……。
「スペンサーの国については、家庭教師から教わったけれど……、どういう国で、どういう産業があるのかまでは教わってはいないの」
「そうか……、それなら市場など見て回ってみないか?」
彼の提案に私は頷く。
別に、私としては彼と一緒に行けるのなら、どこでもいいのだけれど……。
「スペンサーと一緒なら、私はどこでもいいよ? 貴方と一緒に行く場所が、私の行きたい所だもの」
「ティア、そういう言葉は俺以外の男の前では絶対に言うなよ?」
「うん……」
「いい子だ」
「あっ――」
思わず体が、ビクンッ! と、反応してしまう。
……だって――、彼が私の首に唇を当てると吸ってきたから。
「もう! 痕が付いたらどうするの?」
「すまない。どうしても我慢できなくなったんだ……、愛おしい――、愛くるしい――、想いを寄せている、そして誰よりも愛している女性に、俺と一緒にいる場所が居たい所だと言われて……」
「――あっ……」
たしかに……、そう言われてしまうとハッ! と、してしまう部分ばかりで……。
今までは、そんな事を思ったことも殆どなかった。
それに、例え思ったとしても言葉にすることなんてなかったのに……。
「どうした? ティア。顔が真っ赤だぞ?」
「そんなことないから! スペンサー、早く帰ってきてくださいね。約束ですからね」
「分かった」
横になりながら、異性と――、こんな風に語り合う時が来るなんて思っても見なかった。
それに、抱きしめられながら殿方の匂いに包まれていて――、体温を直に感じるのは、とても心地よくて――、また眠くなりそう。
彼と、もう一度、口づけを交わす。
何度も告白を受け入れたあとに繰り返してきた行為で、舌が絡み合うと同時に自然と瞼が落ちてきて体中から力が抜ける。
しばらく接吻をしたあと、お互いの唇が離れる。
「それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
スペンサーは、夜に来室した時に着ていた服を着たあと、シーツで体を隠している私の頭を撫でてから部屋から出ていく。
「もう少しだけ……」
私は、ベッドの中で横になり目を閉じる。
まだ、朝方ということもあり部屋の中は寒いと言う事もあったけれど……、それよりも何よりも彼の温もりを感じることが出来たから。
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