公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(12)




 私から見た彼の目はとても真っ直ぐで――、目を逸らすことなんてできなかった。
 だから、私は――。

 彼の手を握り返すことしかできなかった。
 だって……、きっと――、言葉を語ろうとしたら私は……。
 だから――、私は断らないといけない。
 
「スペンサー、貴方は……、本当の私のことを知ったら――、きっと私のことを嫌いになると思うの」

 私は、何を言っているのか……。
 彼の告白を受け入れない。
 結婚したくない。
 受け入れることなんて出来ない。
 それだけを伝えればいいだけなのに……。

 どうして――、心の中で思っていた事と唇から出てくる言葉が違うのか……、私は――、もう自分の心が分からない。
 
「嫌いになる事なんて無い。――それよりも、君が一人で苦しんで悲しそうな表情で耐えている方が、ずっと苦しい。ティア、君が何を抱えているのか分からない。――でも、君に出会えたから――、今の俺がいる」
「私が居たから……?」

 私は彼の言葉に頭を振るう。
 
「ティア!」
「スペンサー……」
「よく聞入れてくれ。最初にティアに出会った時――、俺は君を見て思ったことがあった。それは既視感だったかも知れない」
「既視感?」
「そうだ。俺は王位継承権を持っていた。だけど――、それは決して高い物じゃなかった。ただの兄のストックにしか見られていなかった。国を――、民の幸せを願って憂いていながらも――、結局は、それを言い訳にして自分が無力だったことを認められずに……、それを何とかしようと足掻いていた。だから――、少しでも自分の価値観を高める為に――、俺は馬鹿なことをした。俺は……、ただの子供にしか過ぎなかった。だから、君を――、ティアを見た時に思ったんだ。いや――、いま気が付いた。君は……、君も俺と同じだったということに――。君は、自分のいる場所を守りたかっただけだということに。ティア、君もそうだったんだろう?」
「…………」

 彼の言葉に私は無言になってしまう。
 彼にも――。

 ――ううん、それは違う。

 誰だって、幾つもの――、多くの――、たくさんの――、思いや願いや気持ちや感情があって、それぞれ考えて行動して、足掻いて苦しんで答えを導きだそうとしている。

 それは、私だけじゃなくて――、誰だって同じで――。

「スペンサーは、人に嫌われることは……」
「ああ、怖い。人に嫌われることを平気だと思う奴なんていない」
「――でも、気にしない人だって……」
「それは違う。本当に誰かに嫌われて平気な人間なんて居る訳がない、そう見せているだけだ。そう強くあろうとしているだけだ」
「そう……、なのですか……」

 どうして、こんな話を交わしているのか。
 どうして、こんな不毛な会話をしているのか。
 どうして……、どうして……。

「ティアも人に嫌わる事が怖いんだろう?」
「――ッ!?」

 私は声が詰まってしまう。
 
「本当はティアの口から聞きたかった。――だが、君はきっと話してはくれないだろう。だから――」

 彼は、懐から一通の手紙を取り出すと私に差し出してくる。
 手紙を受け取ると封蝋が切られており、中身が見られたことを示唆していた。

「白亜邸に連れて行った時に君の傍仕えとして紹介した者を覚えているのか?」
「白亜邸で……、エリンさんの前の方ですか?」
「そうだ。リーンと言う。彼女は、俺に恋慕の情を抱いていたようだ。その彼女が、君が持っていた書物の中に入っていた手紙を掠め取っていたようだ」
「……」
「そして彼女は、その手紙を持って私のところに来たのだ。その手紙には、神代文明文字で君の事が綴ってあった」

 彼の――、スペンサーの言葉に私は封筒の中から手紙を取り出す。
 そして――、目を通す。
 そこには流暢な日本語で私の事が書かれていた。

『これを見ていると言うことは、君は神代文明時代に時空転移してくる前だと言うことを伝えておこう。これは、未来の君からの依頼で調査した結果を伝える物とする。君は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムとして――、転生してきたのではない。君は草薙雄哉という記憶を植え付けられて作られた精神核を運ぶ為の入れ物でしかない。それをまずは報告しておこう』

「わ、私……」



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