公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(9)




「――あ……」

 思わず、唇から声が漏れる。
 そんな私の様子を見て何かを察したのかスペンサー王子は、小さく溜息をつくと自身の額に右手を当てた。

「あれか? 一応、表面上は婚約者という立場があるから回りの付き人の目もある事から、こういう内容にしたという所か?」

 無言で私は頷く。
 肯定されたことでスペンサー王子は「まったく……」と呟く。

「大体の事情は呑み込めた。それにしても、不用意にこういう手紙を送るのはよくない。本気にしてしまう」
「――え?」
「何でもない……」

 最後の彼の言葉が一瞬、聞き取れなかったけど……、安易に好意を示す手紙を送るのは良くないというのは何となくだけど理解できた。

「申し訳ありません。気を付けます」
「別に構わない。――それよりも問題は……」

 何か言いづらそうな雰囲気で――、彼は視線を私から逸らす。

「私の出した手紙で何かあったのですか?」
「実は、国内の有力貴族と話をしている時に手紙が届いたのはいいんだが……、あろうことか妹に見られてしまって……」

 一応、要人という扱いになっている私の手紙を、どうして彼の妹が見るのか理解に苦しんでしまう。
 それに騎士の方が届けてくれると約束もキチンとしてくれたのだから。

「私は、スペンサーに――」

 そこまで彼の名前を呟いたところで、口を閉じてしまう。
 殿方の名前を、そのまま口にするのは何故かとても気恥ずかしい。

「俺に? 俺にどうかしたのか?」
「――いえ……、私は貴方に直接、手紙を届けてくださいと白亜邸に常駐していた騎士の方にお願いしたのですけど……」
「それは後から聞いた。だが――、王城の中は近衛兵騎士団が守っているから、白亜邸の騎士であったもおいそれと入ることは許されない。そういうこともあり、近衛兵騎士団を経由して手紙が妹の元に届いてしまったというわけだ。本来なら、封蝋を見ておかしいと気が付くはずだったのだが……、妹は、俺とティアが表面上だけの婚姻関係にあるとは知らない……、どうした? 顔が真っ赤だが――?」
「――い、いえ……、何でもありません」

 お父様やお母さま、それに他の人に愛称であるティアと呼ばれても何とも思わなかったけど……、異性の殿方に自分の愛称を呼ばれることが――、こんなに気恥ずかしい事だとは思っても見なかった。

「――あ、あの……、それで私と――、……ス、スペンサーの関係を知らないこともあり……」
「そうなる。封蝋も俺からの物と勘違いしたらしい」
「……そ、そうですか……、それで手紙を確認されたと?」
「そうなる。――で、手紙の内容を見てさらに勘違いした妹――、レイネシアが何を勘違いしたのかフィンデル大公に相談したそうだ」
「大公様に? それは……。――で、でも! フィンデル大公様には、私との関係は話してあるんですよね?」

 私の言葉に彼は視線を横に逸らす。

「ま、まさか……」
「すまない。伝えようと思っていたのだが……」

 彼の言葉に、どうして――、こんな夜遅くに女性の部屋に来たのか……、その理由が何となくだけど分かってしまう。

「つまり、私とス、スペンサーが婚姻を結んでいると勘違いしているということですか?」
「そうなる」

 彼の言葉に私は戸惑ってしまう。




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