公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(8)




 どのくらい寝ていたのか分からないけど、部屋の扉がノックされた音で私は目を覚ました。
 部屋の中は、薄く暗く時間は何時か分からない。
 ただ――、部屋の窓から見える外の景色は夕日に照らされていて夜の帳に包まれていない事から夕方頃と推測をつける。

「はい。どなたですか?」
「スペンサーだ」
「スペンサー王子ですか? どうぞ――」

 扉が音もなく開き――、スペンサー王子が部屋の中に入ってくる。
 だけど、窓からは遠いこともあり通路の方までは沈みゆく日差しが届いていないこともあり暗くスペンサー王子の顔は暗がりにあり、どのような表情をしているのか判断がつかない。

「すまない。気分転換ということも含めて我が祖国であるアルドーラに連れてきたと言うのに……」

 申し訳なさそうに言葉を選びながら気を使いつつ言葉を紡ぐ彼に、以前のような高圧的な態度は一切見受けられない。
 王位継承権を剥奪されてから、色々とあったというのは推察できるけど……、ずいぶんと変わったと私は思ってしまう。

「――いえ。元々は、私の不徳とする事でもありましたから……」

 魔力が使えなくなった理由は、私にあるわけだから。
 だから……、男の人に……。

「そんな表情をするな。以前に出会った時のお前はもっと――、生命力に満ち溢れた表情をしていた」

 私を励ましているのが分かるけど……。
 だけど……。

「はい……」

 心配を掛けさせないように――。
 ――と、思いつつも私は心の中では違うと思いつつ答えていた

 ……ただ、彼には表情を見せたくない。
 だから俯いて答えていた。
 
「そんなに体を震わせて問題ないと言われても逆に心配になる。辛いときは辛いと言ってくれないと困る……、いや――、元はと言えばユウティーシア――、君の国に俺が要らぬ介入をしなければ……、いまごろ君は違う人生を歩んでいたのかも知れないのだな」

 彼は、いつの間にか私の近くまで来ていた。
 そして、言葉と同時に私の頭の上に手を載せてくる。
 抱き寄せてくるような真似はしてこない。
 
 やさしく壊れ物を愛でるかのようにぎこちなく頭を撫でてくるだけ。

「そんなことありません。きっと、遅かれ早かれリースノット王国は出ていたはずですから……」
「それでも俺は……」
「スペンサー王子……」

 彼は、何度も過去の過ちについて罪を悔いているというのが分かってしまう。
 だからこそ、変われたのかも知れない。
 それに比べて私は何なのか……。

 強大な魔力と魔法で力任せに他国の改革を推し進めたばかりか、リースノット王国の発展のために前世である地球の知識を使い――、そのあげく他国との軍事バランスを崩してしまった。
 それは本当に必要な事だったのか。
 たしかに自国を富ませるという点からすれば私の行いは正しかったのかも知れない。

 だけど……、それはスペンサー王子が過去に――、リースノット王国の脅威から自国のアルドーラ公国を守る為に私を誘拐しようとした事と、どう違うのか……。

「私は、もう気にしていませんから――」
「すまない。俺は、君に酷いことをしてしまった。そのことは一生をかけて償いたいと思っている」

 彼は、私の頭から手を退けると頭を下げてきた。
 その姿に本当に変わったと私は感心すると共に自分自身が未だに過去に行った行動に正当性を持たせながらも、必死に自己を擁護し詭弁を弄し頑なに自らが行ってきた行動を直しないことに胸を痛める。

「もう過ぎてしまったことです。これからの事を考えて行動して――、それによりより良い結果に繋げていけばいいだけだと思います」

 そう彼に語りかけながらも、その言葉は私自身に向けられたものであると自覚してしまう。
 魔力が――、魔法が殆ど使えなくなり自らの身を守ることも難しくなって初めて私は自分自身がどれだけ傲慢に――、そして不遜に立ち回ってきたのかと自覚してしまう。

「そうだな……」

 浮かない表情でスペンサー王子は頷いてくる。

「あと出来れば……」
「何でしょうか?」
「俺の事は、スペンサーと呼び捨てにしてもらいたい」
「それは出来ません。公私混同の区別はつけませんと――」
「それなら、こうして二人で居る時だけで構わないから……」

 その言葉は命令というよりも懇願に近かった。
 それに、どこか寂しそうな瞳に私は――、「わかりました」としか言葉を返せない。

「それでは、スペンサー……、様……」
「スペンサーでいい。その代わりと言ってはなんだが……。ユウティーシア、君のことを愛称のティアと呼んでも構わないだろうか?」
「――え? あ、はい……」
「それでは、ティア。これからの事について話をしたいと思うのだが……、いいだろうか?」

 彼が懐から出したのは私が送った手紙。

「この手紙には――。ティア、君の執筆で『スペンサー王子へ。私も貴方に会えなくて寂しいです。早く、お会いしたいと思っております。』と、書いてあったのだが……、この事について教えて頂けないだろうか?」




「公爵令嬢は結婚したくない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く