公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(6)
馬車は、両端に立ち並ぶ店舗街を走り続ける。
しばらく走ると、店舗の数が少しずつ減っていく。
そして――、初めて壁らしき物が見えてくる。
「あれは、何かしら?」
私は、前方に見える壁を見て首を傾げる。
エリンさんの話だと壁は無いと聞いていたから。
「高さは、それほどではありませんが貴族街になります」
「そう」
「はい。一応、王城と外部との緩衝エリアとなっておりますので小さいながらも壁が昔から存在しています」
彼女の言葉に私は頷く。
馬車は壁の中に入る前に一度停止すると――、しばらくしてから走り始める。
壁の中に入る直前、門を守っている衛兵が頭を下げていた事から手続きは恙なく終わったのだろう。
壁を超え、中に入ると雰囲気は一変する。
邸宅の大きさは、リースノット王国の貴族街と大差はない。
しばらく馬車は走ると、大きな門の前で停止すると数名の軽装の衛兵が近寄ってくる。
エリンさんは、馬車のドアに手を伸ばす。
「こちらはスペンサー様のお屋敷ですが、身分のご提示をお願いできますか?」
「白亜邸で職務を行っているエリンです。こちらを――」
小麦の柄が描かれている銀色のプレートをエリンさんは取り出して衛兵に見せると、すぐに門が開く。
「それではお願いします」
エリンさんが、御者に話かける。
すぐに馬車は、開いた門を通り抜け両脇に木々が並べられた敷地の中へと進んでいく。
敷地に入ってから、5分ほどでようやく建物が見えてくる。
「ユウティーシア様。あれが、公都ルクセンブルグでのスペンサー様の活動拠点でありお屋敷です」
外から見ただけで――、シュトロハイム公爵家の本宅の10倍近い規模を誇っている屋敷であることが分かってしまう。
「ずいぶんと大きいのね」
「以前は、別の場所というより――、白亜邸がスペンサー様の主な拠点だったのです。ですけど、しばらく前から、軍事・経済共に国の発展に寄与したということで諸外国との話し合いをする身分で公都に屋敷が無いのはと危惧されたフィンデル大公がご用意したそうです」
彼女の話を聞いている間に馬車は屋敷の入り口に到着する。
馬車から降りたあとは、エリンさんに案内されるように入口の扉が開け放たれた建物の中へと入ると、20人以上ものメイドと燕尾服を着た男性が頭を下げてきた。
「私の名前はインク・グラスと申します。グラスと呼んでください。こちらのスペンサー様のお屋敷の管理を任されております」
「頭を上げて頂けますか? 私は客人に過ぎませんので――」
「何を仰せで。ユウティーシア・フォン・シュトロハイム様は、すでにスペンサー様とご婚約を行われたとお聞きしております。つまり、私達の女主人ともなるわけです。何か至らぬことがありましたら、遠慮なく仰せください」
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