公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

幕間 リースノット王国の思惑




 リースノット王国の王城の西側には大量の魔法による明かりが灯されていた。
 大勢の魔法師が生活魔法に明かりを作りだし、城修復を行う人夫の足元を照らし手伝っている。

 百人以上の人夫が、城の復興を急ピッチで直しているのは壮観ですらあった。

「はぁー」

 その様子を見ていたグルガード・ド・リースノット国王は深く溜息をつく。

「グルガード様、何度も溜息をついておりますと幸せが逃げますぞ?」
「そうは言ってもな……」

 ベランダから執務室に戻ったグルガードは、執務机を前にして椅子に腰を下ろすと執務室に肘を付きながら自分に話かけてきたリースノット王国の三大公爵家一つウラヌス公爵家の現・当主エルド・フォン・ウラヌスを見据える。

「起きてしまったことは仕方ないでしょう。むしろ、リースノット王国が存在していたことを喜ぶべきことです」
「――たしかに……」
「そうでしょう? 普通、奴隷のような扱いをされればユウティーシア嬢で無くとも癇癪を起すことは必死です。まして、あれだけの巨大な魔力を持っているのですから、城の一部が吹き飛ばされただけで済んだことを喜ぶべきことでしょう」
「そ、そうだな……」
 
 ウラヌス公爵の説得に、グルガードは苦笑いを浮かべながら頷くと、彼の様子を見ていたウラヌス公爵も相槌を打ちながら懐から一枚の用紙を取り出す。

「それは?」
「シュトロハイム公爵家の家令が、近衛兵に預けた物のようです」
「ふむ……、シュトロハイム公爵家の家紋で蝋封がされているな」
「はい。近衛兵に確認致しましたところ、かなり急いでいたとの事でしたので……」
「なるほど……」

 グルガードは、蝋封をナイフで着ると封筒から手紙を取り出す。

「ほほう」
「どうかなさいましたか?」
「うむ。どうやら、エレンシア公爵夫人は、ユウティーシア嬢の説得に成功したようだ。近々、帰国する手筈になっているようだが……」
「何か問題でも?」
「うむ。どうやらユウティーシア嬢は、自分が居なくなった後のミトンの町の事を気にかけているようだな」
「なるほど……、それならユウティーシア嬢が保有しておりますミトンの経営権をリースノット王国に譲渡するように話せばいいのではないのですか?」
「どうやら、それでは納得はしないようだ」
「――と、申しますと?」
「王位簒奪レースで、王族を根こそぎミトンの商工会議のメンバーと入れ替える腹積もりのようだ」
「それは!? 国を奪うと言う事で?」
「狙いは分からん。だが――、ユウティーシア嬢が持つミトンの経営権の事を考えてみれば、もしユウティーシア嬢が代表を務めているミトンの商工会議が海洋国家ルグニカを治めた場合、リースノット王国には大きな利益が発生する」
「なるほど……。つまり、今後の事を含めて海洋国家ルグニカの広大な土地の一部が手に入るかもしれないということですか。それは魅力的な案ですな」

 ウラヌス公爵の言葉に、グルガードが頷く。
 その表情には、先ほどまでの疲れを見せていた面影は微塵も存在していない。

「――ですが……、王位簒奪レースは、王族が常勝しております。それは軍艦を出しているからです」
「――なら、こちらからも軍船の手配をすればいいことだ」
「ユウティーシア嬢にバレないでしょうか?」
「ウラヌス公爵。お主、分かっているのだろう? ここまで、ユウティーシア嬢がお膳立てしておいて、我々リースノット王国の支援を受けないわけがないであろう? もしかすると最初から、海洋国家ルグニカを手中に収めるために、ユウティーシア嬢は行動をしていたのかも知れぬぞ?」
「――グルガード様。それは、ありえません。彼女を幼少期から見てきた私が断定します。そこまで考えて行動するような者ではありません。おそらく行き当たりばったりで行動をしていたら、何時の間にかユウティーシア嬢にとって有利に事が運んでいたと私は思うのですが?」
「たとえ、それがそうだとしてもだ! これは千載一遇のチャンス。物にするのはいいことであろう?」
「はい。それでは、すぐにハデス軍務卿に話を通してきましょう」
「うむ。最悪、海洋国家ルグニカの軍船に工作するように手筈を整えても構わん」
「畏まりました」

 執務室から、ウラヌス公爵が出て行ったあとグルガードは、執務室机の上に置かれているベルを鳴らす。

「何かありましたでしょうか?」
「ルガードを呼んで参れ」
「ルガード様をですか?」
「うむ」
「ですが、ルガード様は、王族の身分を剥奪された方。そのような方を――」
「ルガードは何もしておらん。それは、立証済みのはずだ。今までは他の貴族の手前、王家へ向かい入れるのが困難であったが、本来であれば第一正妻であったルリカの息子ルガードが第一王位継承権を持つのが当然である。すぐに連れて参れ」
「わかりました……」

 執務室から出ていく近衛兵を見送ったあと、グルガードは目を閉じる。

「ルガードは、ルリカに似て自由奔放な性格だ。おそらくユウティーシア嬢と性格は合うであろう。ユウティーシア嬢とルガードが結婚し、ルガードが王位を継げば海洋国家ルグニカの広大な土地も一部であっても合法的に手に入れることが出来る。さすれば、民の生活はもっと潤うであろうな」

 




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