公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

雨音の日に(15)




 場の空気が重い。
 誰も話そうとしない――、それなのに集まっている参加者全員の視線は私に向けられている。

 とりあえず、スペンサー王子と相談をした方が良いかもしれない。
 彼は見学でいいと言ってくれたけれど、とてもそんな雰囲気ではないし……。

「スペンサー王子」
「スペンサーでいい。何だ?」

 小声で話しかけると彼も私の声量に合わせて答えてきてくれる。

「わたし、自己紹介したほうがいい?」
「やめてくれ……、全員が卒倒しかねない――、と……、言いたいところだが……、頼めるか? どうやら、私の知らない顔ぶれが何人かいるみたいだからな。話しの主導権を握りたい。ユウティーシアは、こういう場は得意だろう?」
「得意と言われても……」

 私は仕方無くやってきただけで、別に得意という程ではない。
 それでもスペンサー王子には、暴漢から助けてもらった恩があるわけだし、私に配慮をしてくれていたりもする。
 ここは人肌脱いで上げても良いかもしれない。

 椅子から立ち上がりスカートの裾を掴み軽く会釈をする。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイムです。よろしくお願い致します」

 殿方の視線が、私が着ているドレスに向けられているのが分かる。
 大きく開いた胸元に視線を感じる。
 まったく……、少しは私の話を聞いてほしいものです。
 視線を上げると貴族の方々と視線が絡む。
 彼らは、ばつの悪そうに私から目を逸らしていく。
 
「ずいぶんと堂にいった挨拶ですな」
「まったくです! さすが! スペンサー様ですな!」
「うむ。先々代のティア王妃様のドレスを着こなして居られるとは、どこのきぞ……く?」

 途中で疑問を呈した貴族――、40代ほどの殿方の顔色が突然変わるとワインの入っていたグラスを床へ落とす。

「――ユ、ユウティーシア!? あの! シュトロハイム公爵家の黒い悪魔のユウティーシア!」

 それだけ言うと椅子から転げ落ちると会談の部屋の隅まで這うような様子で必死に逃げていく。
 一体、何が――。

「コルガ老! 気をしっかり!」

 先ほど、エルミア伯爵とスペンサー王子に名前を呼ばれていた貴族の殿方が、70代近いご老人に語りかけている。
 どうやら、会談部屋のテーブルにうつ伏せになったまま意識を失ってしまったよう。

「スペンサー様! これは一体、どういうことですかな? アルドーラ公国で黒い悪魔ユウティーシアを知らない訳ではないでしょう! それとも、私達を一網打尽にするために……」

 レイリトン子爵と、スペンサー王子に言われていた殿方が怯えた様子で私を見てくる。
 
「皆、落ち着け。この者――、ユウティーシアが何故、先々代のドレスを着ているのか――」

 ――ん? スペンサー王子は途中まで話しかけていた口を閉じると手を差し出してくる。
 もしかして、握ってほしいということ?
 どんなパフォーマンスをしても、ここまで嫌われていたらどうにもならないと思うのだけど……。

「――ま、まさか……」

 どうやらエルミアは何かに気がついたみたい。
 それに続いて

「つまり、そういうことなのか?」

 アルデイア侯爵と呼ばれていた貴族の方は瞳をまっすぐスペンサー王子に向けたまま「彼女――、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム公爵令嬢と結婚されるということですか?」と、スペンサー王子に問いただしていた。
 
「ああ、そうだ」
「「ええー」」

 私とアルデイア侯爵の言葉が重なる。

「どうしてユウティーシア公爵令嬢が驚かれるのですか?」
「――い、いいえ……、特に何かあるわけでは――」

 私はチラリとスペンサー王子の方を見る。
 すると彼は頭を下げてきた。
 どうやら、ここは話しに乗って上げた方がいいかもしれない。



 
  

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コメント

  • クルクルさん/kurukuru san

    誕生日にいいもの読ませて頂きました。ありがとうございます(*´罒`*) 続きが楽しみです!

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