公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

雨音の日に(12)




「エリンさん……、この肖像画は――」

 震える唇で私は姿見の上に――、壁に掛けられている絵を見ながら言葉を紡ぐ。

「ユウティーシア様に、あまりにもそっくりだった為、私も最初は驚いてしまいました」
「そっくりって……」

 瓜二つにしか見えない。
 
「先々代の王妃様のお名前は、ティア・ド・アルドーラ様です」
「……ティア?」
「はい。ですが――」
「何か?」
「アルドーラ王国王家の中には、ティア・ド・アルドーラではなくユウティーシア・ド・アルドーラと呼んでいた者がいたとか……。ですが。何分100年前の事と言う事もあり事実は分かってはいないそうです」

 彼女の言葉にあるティアと言うのは、お父様やお母様に親しい人が私を呼ぶ時の名称。
 
「100年前……」

 意味が分からない。
 私が転生してきたのは、異世界の地球であって輪廻転生をした記憶なんて無いから。

「あ! もしかして、この絵って皆さん知っているのですか?」
「いいえ、警備に当たっている衛兵の方と、レイクアイランド教会を維持している方々くらいです」
「もしかして門兵の方も知っていますか?」
「はい。時折、警備の場所を変わることがあるようですので」

 彼女の話を聞いてようやく私はエイラハブの町に入るときに兵士の方々が私を見て驚いた表情を向けてきた理由が何となく察することが出来た。

 つまり、私を先々代のアルドーラ公国の王妃様と勘違いしたのだろう。
 
「とくに皺になっているような様子はないようです。ユウティーシア様?」
「え、ええ……」

 私は混乱しながらもエリンさんの言葉に頷く。
 だけど、私は何故だがふいに「それに……、仮初の存在である貴方に、それだけの価値があるとは思えないもの」と言う言葉を思い出した。
 誰に言われたか? そこまでは覚えていないけど、たしかに誰かにそう言われたのは覚えている。

 ――仮初? 一体……、何のことを指しているのか……。



 ドレスに皺などは無い事を確認した私はエリンさんと共に、スペンサー王子が会談を行う予定の部屋に向かっている。
 そんなに距離は遠くない。
 今は、憂鬱な気分だったこともあり、あまり歩きたい気分ではなかったので良かった。

「ユウティーシア様、こちらのお部屋になります」

 部屋に入るとスペンサー王子がガーランドと呼ばれていた殿方と話をしていた。
 スペンサー王子は私と目が合うと近寄ってくる。
 何故か顔が真っ赤に見えた。

 ――これは、もしかして……。

「迷惑をかけた。ユウティーシア、君の膝を借りて寝ていたとガーランドに言われた。国賓として休息の為と誘ったのに本当に申し訳ない」

 スペンサー王子は、勢いよく頭を下げると謝罪を口にしてくる。

「そ、そうなのですか?」
「ああ、まったく――、申し訳ない」
「…………」

 どうやら、彼は私が膝枕している間の事を覚えていないみたい。
 少しだけ心配事が減った気がする。

「ほ、本当だ! 本当に俺は何も覚えていないぞ! 膝枕が柔らかくて心地よかったから寝ているフリをしていたとか、胸を揉んでしまったこととか! 胸に顔を埋めて良い匂いで柔らかいと思いながら意識を失ったりとかは一切な――、ごふろおぁ」

 ――やっぱり起きていた! と、思った時には右手が出ていた。
 頬をビンタしたスペンサー王子の体が空中でキュルキュルと回転しながら床の上に落ちる。

「やらないと――。意識を……、記憶をなくすまで殴らないと――」

 そうしないと私の黒歴史が……。

「待て! これから会談が!」
「大丈夫です。口が聞ければ問題ありません」

 とりあえず口が聞ければ会談には支障はないはず。

「ユウティーシア様、お待ちください!」

 後ろからエリンさんが私を羽交い絞めにしてくる。
 そしてガーランドさんも、私とスペンサー王子の間に割って入ってきた。

「離して! そうしないと私、殺れない!」
「もう多くの人が聞いています!」

 ハッ! そ、そうだった……。
 スペンサー王子の言葉をエリンさんもガーランドさんも聞いていた。
 つまり、私が膝枕をしていた事実を、この部屋にいる私以外の3人は知っているわけで……。

「最悪です……」

 ガクッと膝を床につけてから両手を床につける、

「ユウティーシア様。お召し物が汚れますので立ってください」

 エリンさんから冷静な突っ込みが入ってきた。

 
 


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