公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

雨音の日に(2)




 仰向けにされた私は、男たちの会話を聞いていた。
 まさか――、自分が男に凌辱されるとは思わなかった私は恐怖からか何も考えずに魔法詠唱を口にしようとしたところで、男に頬をはたかれた。
 口の中に血の味が広がっていく。

「……や……、いや――」

 自分でも信じられないくらい弱々しい声が出た。
 無意識でも自分が、そんな声を出していたことに驚いてしまう。

「やめて! お願い! いやっ!」
「煩い! 黙れ! 殺すぞ!」

 再度、男の人に頬を叩かれる。
 でも、何もしなかったら私は――。
 怖くて恐ろしくて必死に声を――、助けを呼ぶ声を上げようとする。
 そのたびに口の中に血が広がっていく。

 気が付けば雨が降り始めていた。
 誰も辺りを通りがかる様子はなく、必死に声を上げたけれど誰も気づきはしない。
 
「やっと大人しくなったか――」

 もう、あらがう力もない。
 男が短刀を持ちだすと私が着ているワンピースを切り裂いた。
 
「なんだ? この布は――」

 私が着ている下着を下卑た目で見てくる男の手が私の下着に伸びてくる。
 それを、諦めた様子で見ながら両手から力を抜いた。
 強大な魔法力が無いと、私には普通の男の人と対等に戦う力すらない。
 そのことを十分に理解させられてしまっている。
 思えば、私の力や行動が原因で多くの人に迷惑をかけて怪我をさせて死なせてしまった。
 それが、自分に返ってきただけで。
 そう思うと抵抗する意味はあるのか? これは天罰なのではないのか? と思ってしまい。

「その汚い手をどけろ! 平民!」

 どこかで聞いた声が――。
 私は、抑えつけられたまま声が聞こえた方を見る。
 そこには、アルドーラ公国のスペンサー王子が立っていた。
 その表情は一目で怒っていることが分かるくらいに真っ赤になっていて。

「何だ? どこの貴族だ?」
「どうしますかい?」
「…………この娘は、お前の知り合いか?」

 リーダー格の男が、スペンサー王子に話かけながら近寄っていくけど、私からは見えた。
 スペンサー王子に近寄る男が背後にナイフを隠しもっているのが。

「……スペン……王子……、ナイフ……」

 口の中が切れてしまって声がまともに出せない。
 魔法を使おうにも詠唱や魔法陣形成には時間がかかってしまう。
 必死に声を出そうともがいている私をスペンサー王子は、苛立った眼差しで見てくると同時に、近寄ってきていた男を殴り飛ばした。
 一瞬、空中にリーダー格の男が浮く程。
 間を置いて男が濡れた地面の上に背中から倒れ込むのが見えた。

「マジか! おい!」

 私の衣服を切った男が手にナイフを持ったままスペンサー王子に走りよる。
 半身の構えを取った王子は、突き出されたナイフを持っていた手を掴みとると、そのまま男を地面の上に叩きつけると同時に腕を折った。

 腕が折れる音と、痛みからくる男の叫び声が雨音を掻き消すほどの声量で辺りに響き渡る。

「まだやるか?」

 スペンサー王子の――、殺気を纏っているようにすら感じられる眼差しを向けられた暴漢達は、蜘蛛の子を散らすようにリーダー格の男や、腕を折られた男を連れて路地の闇へと逃亡し姿を消した。

 スペンサー王子は、姿を消した男たちの後ろ姿をしばらく見たあと、深い溜息をつくと共に私に近寄ってくると、羽織っていたアルドーラ公国の紋章が描かれたマントを外すと私にかけてくると膝をつき私を抱き上げた。

「大丈夫だったか?」

 彼が何で此処に居るのか分からない。
 だって、ミトンの町に居るはずだったのに……。
 
「どこか怪我はないか?」
「……だ……い……」
「口の中を切ったのか?」

 痛みからか声を満足に出せない私に彼は魔法陣を展開していく。

「あまり魔法は得意じゃないが……」
 
 彼が展開した魔法は治癒魔法の中でも初級の物であったけれど、口の中を切ってしまった傷を塞ぐだけなら十分なもの。
 すぐに口の中から痛みが引いていく。

「……ありがとうございます」

 感謝の言葉を告げたところ、彼は柔和な顔つきになって「どうやら上手くいったようでよかった」と答えを返してきてくれる。

「それよりも、お前らしくないな。あの程度の連中なら、いくらでも対処できただろう?」

 彼の言葉に、無意識的に顔を背けていた。
 たしかに最初から魔法を使っていれば何とかなったかもしれない。
 ――でも、魔法を使う事で誰かが傷ついてしまったらと思うと怖くて使うことが出来なかった。
 自分でも馬鹿だと思う。
 でも……、でも――。

「ミトンの町で塩田を見まわった時に思いつめたような様子があったのが気がかりだったから追ってきたんだが、正解だったか」
「――え?」
「気が付かないと思ったのか? 以前のお前は、自信に満ち溢れた俺様風な様相だった。なのに、今は、周りの視線ばかり気にして人のご機嫌ばかり伺っている有様じゃないか。まぁ、この国の連中は分からないが俺は前のお前を見ているからな。それにしても、行方不明と冒険者ギルドの人間に聞いたときは驚いたぞ?」
「ごめんなさい」
「いや、別に謝ってほしいわけじゃないんだけどな……」

 彼は困った表情を見せてくる。
  
「それにしても、ずいぶんとお強かったのですね」
「まぁ、あれから鍛えていたからな」
「あれから?」
「深くは繊細しないでくれると助かるんだけどな。
「はい」
「それよりも、どうしてこんなところにいるんだ?」
「それは……」

 何て言っていいか分からない。
 だって言ってしまえば全てのことは私が発端だったことが分かってしまうから。
 だから沈黙を貫き通すことくらいしかできなくて。

「……言いたくないことか。仕方ないな、どこまで連れていけばいい? 冒険者ギルドで休息を取っていたと情報は得ていたが――、この町のどこかに泊まっているんだろう?」
「カベル海将様のお屋敷でご厄介になっています」
「なるほど……。カベル海将の所か――、っと、その前に服を何とかしないといけないな」

 彼の言葉に、そういえば杖とか仕様書とか手紙を置きっぱなしのままだったことを思い出してしまう。

「あの、冒険者ギルドに荷物を置いたままなのです」

 私の言葉に彼は少しだけ考え込んだ様子を見せると「分かった」と答えを返してきてくれる。
 御姫様抱っこされたままでスペンサー王子と話をしていると。

「スペンサー様!」

 何人もの鎧を着た騎士や、青い外套を着た魔法師が小走りで近寄ってくると立ち止まり私とスペンサー王子を交互に見る。

「ユウティーシア様が見つかったのですね」
「ああ、とりあえずカベル海将の方にはユウティーシアが見つかったことを知らせてくれ」
「ハッ! わかりました!」

 騎士が二人路地へと走っていく。
 残りの3人の魔法師と5人の騎士は周囲に目を光らせているのが分かってしまう。

「レイルから大体の話は聞いている。しばらくは療養の許可も得ている」
「療養……」
「ずいぶんと疲れているようだとレイルも言っていたからな」
「レイルさんが……」

 自分では上手くやれていると隠せているようだと思っていたのに……。
 
「アルドーラ公国までの転移魔法を使うことは出来るか?」
「はい。どうやらユウティーシア様の魔法力はかなり減っているようですので――」
「魔法力が?」

 驚いた表情でスペンサー王子が私を見てきた。

 
 

「公爵令嬢は結婚したくない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

  • クルクルさん/kurukuru san

    まさかのスペンサー王子(*º ロ º *)!!
    次回も楽しみにしてます!

    1
コメントを書く