公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(26)



 軋む階段を上がり2階へと――。
 廊下も木造。
 廊下を歩くたびに使われている木材が軋みを上げる。
 たぶん木造加工技術や建築基準は日本と比べて劣っているのかも知れない。
 
「ここがメリッサとアクアリードの部屋だね」
「ここが……」

 二人とも怪我の治療は杖の力で完治はしているけど、きちんと動くかどうかの保証はない。
 もし後遺症が残ったらどうしよう。
 そんな思いが心の中に沸き上がってくる。
 そもそも、エルノの町の冒険者の方々が傷を負ったり殉職したのは私のせいでもあるのだ。
 私が強い魔力をエルノのダンジョンで使ったから……。
 それで誤作動を機械が起こしたと草薙雄哉は言っていた。
 なら、本当の現況は私で――。
 怪我を治療するまでは、時間との戦い、そして魔物を何とかしないといけないという気負いがあって深くは考えなかった。
 だけど……、一休みしてみて考えてみれば全て、全て私が悪いのだ。

「さっさと開けるぞ」
「――あっ! ちょっ――」
 
 私が色々と考えていたのに――。
 コルクさんは、何も考えずに扉を開けた。
 中には、着替え途中のメリッサさんやアクアリードさんが居た。
 
 何度も言うけど、この世界には下着という概念が殆どない。
 リースノット王国では、ウラヌス公爵家が婦人用の下着を作って販売をしているけど、諸外国までには販売は至ってはいない。
 何せ、全て手作業なのだから作れる個数が限られる。
 さらに言えば技術を盗まれないように限られた人材だけで作っているので流通数も少ない。
 つまり……。

 この世界の女性は日本の女性が裸の上に肌着を着て、そのまま着物を着るように基本的に下着をつけていない!
 ――まぁ、したは褌だけど……。
 つまり、何が言いたいのかと言うと。

「この変態が!」
「最低です!」

 コルクさんと目が合ったメリッサさんとアクアリードさんから平手打ちを食らってしまう。
 日本の界隈で言う所のラッキースケベと言う物かもしれないけど……。
 二人とも冒険者として体を鍛えているだけあって、コルクさんの体が吹き飛び宿屋の壁を貫通し外へと消えていった。

「ここは2階なのですけど……」

 結構な速度で廊下の壁を壊して外に吹き飛んでいったから、もしかしたら怪我をしているかも?

「あれ? ユウティーシア様」

 メリッサさん、お身体の具合は大丈夫ですか?

「はい。もうこの通りです」

 彼女は両手を回している。
 どうやら体の欠損部分は無事に治ったみたいで後遺症もないみたい。
 本当に良かった。

「私達のために迷宮に赴いたと、ギルドマスターから聞きました。手間をかけさせてしまって……」
「気になさらないでください」

 頭を左右に振りながらアクアリードさんの言葉に答える。
 そう、本当に気にしないで。
 今回の機械の魔物が出たのは私のせいなのだから。
 言わば冒険者の皆さまは被害者であり加害者は私。
 草薙雄哉が言ったとおり、私が問題を起こして、そして私が問題を収束させただけのこと。
 マッチポンプ以外の何物でもない。
 本当に私は最低で――。
 本当の事も言えない自分がどうしようもなく嫌になる。

「アクアリードさんも、もうお身体は大丈夫なのですか?」
「はい。もう、すっかり――」
「良かった……。何か、あればすぐに言ってくださいね」

 二人は頷いてきてくれるけど、どこか浮かない表情をしているような。

「……は、はい。何かあれば――。ね! アクア」
「そうね」

 二人は、ぎこちない笑みを私に向けてきてくれたけど、どこか作り笑いにしか見えない。
 


 しばらく二人と会話したあと、階段を下りてカウンター傍まで行くとコルクさんが入り口の柱に背中を預けて待っていた。

「二人との話しは終わったのか?」
「ええ」

 コルクさんの横を通りすぎるようにして外に出る。
 そこには、多くの人が通りに溢れていた。
 持ち出していた家財道具を破棄した家々に戻しているようで。
 立ち止まって様子を見ていた私にコルクさんが「カベル海将様から、魔物討伐の報が齎されたからエルノの町から逃げ出す予定の人間が帰ってきているんだ」と、説明してきてくれた。

「そう……、なのですか……」

 コルクさんの言葉に頷きながらエルノの町の人々に迷惑をかけてしまったという罪悪感が沸き上がる。
 
「そういえば、コルクさん――」
「なんだい?」
「メリッサさんと、アクアリードさんが浮かない表情をしていましたけど何かあったのですか?」
「――ん? ああ、気がついていないのか」
「何のことでしょうか?」
「二人ともダンジョンから出た武器を喪失したから、冒険者ギルドランクがAからDに下がったんだよ。二人とも元々からそんなに才能のある部類じゃないし妥当と言ったとこ……」
「――っ!? コルクさん!?」
「二人に会いに行ってどうするつもりだ?」

 彼は、思わず駆けだしそうになった私の腕を掴んでくると溜息交じりに話しかけてくる。

「冒険者ってのはシビアなんだよ。実力が無ければ上になれない。二人は、ダンジョンで出た武器で戦闘力を飛躍的に上げていただけで、そこまで強くはない」
「そんな……」
「同情か? 同情だけは、冒険者にするなよ? 冒険者にだって自分の力だけで生きていくって言う矜持があるんだから」



 
  

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