公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(25)




 ギルドマスターの部屋から出て受付の方へと向かう。
 日頃、冒険者達が雑談などをしているフロアには大勢の人が寝かされていた。

 まだ移動は出来ないみたいで――。
 その様子を見ながら私はタウンページほどもある本の内容を思い起こす。

 メディデータ―の体組織は基本的に、精神波と呼ばれる魔力で構成されていると記されていた。
 そして、世界に満ちている魔力を糧として人々つまりメディデータは、体の組織細胞を肥大させていく。
 それはつまり一つの容器に水を入れて大きくしていくような物で、減数分裂を繰り返して大人になっていく地球人類とはまったく異なる種族であると――。

「二人は?」
「重症だった者は、貸し切っている隣の宿屋に泊まらせている。ギルドマスターからの指示で」
「そうですか……」
「さすがに、体が欠損した部分がすぐに修復されるような魔法が行使できる者が居ると知れたら町中がパニックになるからな」
「パニックに?」

 コルクさんの言葉に私は首を傾げる。
 別に怪我人の治療だけでパニックになるとは到底思えないけれど……。

「そうだ。冒険者ギルドマスターとカベル海将様の指示でね」

 ――なるほど。
 二人の考えなら何か意図があるのかも知れない。
 下手に、元・怪我人がいる場所でコルクさんに聞くのは止した方がいいと結論づける。

「ずいぶんと物分かりがいいんだね」
「物分かりというか、二人はコルクさんと違いますから――」
「まったく、ずいぶんと嫌われてしまったようだね」

 彼は軽く笑いながら語り掛けてくるけど、何がおかしいのか私にはサッパリ分からない。
 
「女性に嫌われるような事をするからではないのですか?」

 ニコリと微笑みながら彼に言葉を返すと、コルクさんは苦笑いをしていた。



 冒険者ギルドと隣接している宿屋は、煉瓦作りの冒険者ギルドや娼館と違って木造建て。
 建物の中に入るとすぐ左手にカウンターがあり、座っていた30代くらいの男性が「お泊りかい? 生憎、いまは満室でね――」と、申し訳なさそうに語り掛けてきた。

「彼女は、冒険者ギルドの関係者だ」
「コルクか。ほう、そんな別嬪さんも冒険者ギルドにいるのかい――。まるで、どっかの御姫様みたいだね」
「よく言われるらしい」

 コルクさんが、すかさず宿屋の店主らしき人の疑問に答えていたけれど――。
 彼と店主の話が終わったところでコルクさんと私は階段を上がっていく。

「まったく、君のせいで――、この真っ赤に腫れている頬を追求されたよ。一応、これでも女性には優しい人で通っているのにね」

 何を言っているのだろう?
 この人って、女性からはS級冒険者だからすごいと思われているに過ぎないことに気が付いていないのかな?
 レオナさんだって、コルクさんとは仕事の関係上は仕方なく同行していたみたいだけど、あまりいい印象を持っていなかったのは私でも分かるし、私も彼みたいな人は苦手で好きじゃない。

「寝言は寝て言うものですよ?」
「ティアちゃんは、きっついなー」

 彼は、私が叩いた頬に手を当てているけど、それで私が罪悪感を覚えるとでも?
 乙女の柔肌を見たのは日本なら痴漢扱いで実刑判決ですよ!
 それに、私に対して馴れ馴れしいから。

「もしかして、俺って嫌われる?」
「大嫌いです」

 バッサリと切って捨ててあげる。
 まるで、態度がクラウス殿下を彷彿させるようでチャラすぎて嫌悪感すら抱きそう。






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