公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(21)




「そうですか……」

 小さく息を吐くと、エルフさんは手を振るう。

「――クッ!?」
「――なっ!?」

 二人が膝から床の上に崩れ落ちて倒れる。

「エルフさん!? 一体、何を!」
「ご安心ください。メディデータが精神波から得るエネルギー供給のパスを一時的に閉じただけですので生命の維持には問題はありませんので――」
「問題はないって……」

 二人ともすごく苦しそうに表情を歪めている。
 
「十分、問題があるじゃないの!」
「申し訳ありません。ですが! 私の主様と接見することを決めたのは私の主様とユウティーシア様です。そのため、彼らの入室を許可するわけにいかないのです。私は、そのように言いつけられておりますので――」
「…………そう。それなら二人が着いて来ないのなら――」

 途中で私の意図を読み取ったのかエルフさんは頷くと二人に視線を向けた。
 それと同時に、コルクさんとレオナさんの体から力が抜ける。
 手に持っていた剣ももったまま。
 慌てて近づき首に指を添える。

「脈は動いている」

 ホッとしながらも呼吸音を確認するけど先のが確認できるし、先ほどまで過呼吸気味だった様子も落ち着いていて――。

「一体、何をしたの?」
「二人の意識を刈り取りました。その方が貴女様にもご迷惑にはならないと思いまして」
「……意識を刈り取るって――、自分が何を言っているのか分かっているの!?」

 人の意識を本人の同意も得ずに失わせるなんて、そんな事が許されていいわけがない。
 なのに、それを当然のように言い放ったエルフさんに嫌悪感が沸き上がってくる。

「理解しています。そうしなければ、二人は間違いなくユウティーシア・フォン・シュトロハイム様のことを知ってしまうでしょうから」
「……どういう意味なの?」
「話は主様から――、この扉を潜り抜けて突き当りの部屋でお待ちです」
「……分かったわ」

 答えるつもりの無い彼女に私は苛立ちを抑える。
 それに、彼女の様子から、コルクやレオナに行った行為ついては悪いとは思っていないのが分かってしまう。

「なるほど……、アナタは、大きく分けると自動人形なのね?」
「肯定です。私は主様に作られた端末に過ぎません。そのため、お答えできる内容についても厳格に権限が定められております」
「そう――」

 それなら彼女と長話をしていても仕方がない。
 言われて見れば最初から目の前に立っている女性――、エルフさんは自分が作られた者と言っていた。
 
「……でも――」

 私は、床の上で気絶している二人に視線を向けてしまう。
 それなら、メディデータと言われていた二人も創造された物ということになる。
 それなのに――。
 それだけじゃない。
 この世界に住む人間が全て作られた存在だと言うなら、人間の持つ感情は一体――。

「考えても答えは出ないわね」

 前提となる情報が不足しているのだから、答えを導きだすことができるわけがない。
 
「二人には手出しをしないでね」
「分かっています」

 間髪入れずエルフさんは答えてくる。
 まるで機械のように。
 そんな彼女に私は苦笑することしかできない。
 その主に作られたという存在。
 権限だけで縛られているモノとは一体何なのだろうか?
 自らで考え決断して進む道を自分で選択できない存在というのは機械と大差がないのではないのか?
 それは、本当に生きていると言えるのか? と――。

 

 彼女――、エルフさんが指さした扉へと近づく。
 すると、一瞬だけ体が光に包まれると「音素を確認しました」とだけ明らかに機械音声と思われる声が流れると扉が横に開く。

「音素……」

 聞いたことが無いものに眉を顰めながら扉を潜り抜ける。
 すると、すぐに扉は閉まりまっすぐに通路が続いているのが見てとれた。

 壁自体が光を発しているようで歩くのに支障はないし、何より歩いていても音が鳴らない。
 まるで全ての音を――、空気の振動を壁や床が吸収しているようにすら思えてしまう。
 突き当りには扉があり、手を触れた途端、扉は左型に音も立てずスライドし開閉された。
 室内に足を踏み入れた途端、明かりがつく。
 部屋の中は天井が10メートルほど。
 直径は30メートルほどのドーム状の空間で、壁は全て白一色であった。

 他には何も見当たらない。

「誰かいないの?」

 室内には扉も窓も存在しておらず人の気配もない。

「ああ、すまない。久しぶりの客だったからな」
 
 慌てて振り返る。
 そこには白衣を着た身長が170センチほどの男性が立っていた。
 年齢は40歳前後と言ったところだと思うけど……。

「貴方は……」
「ああ、すまないね。俺の名前は草薙(くさなぎ)雄哉(ゆうや)。君を待っていた者だ。私の部下が迷惑をかけてしまって申し訳ない。君には、些か不愉快に映ったのではないのか?」
「……」
「本当にすまないな」

 彼は、頭を下げてから私の目をまっすぐに見てきたあと右指鳴らす。
 すると何もなかった空間――、壁が唐突に変化し森や川を映し出した。
 それは――、私が見たことがある風景。

「日本庭園――、見浜園ですか……」
「そう。嫌いではないだろう?」
「ええ、月に一回は――」

 彼の言葉に私は頷く。
 仕事が忙しい合間に、気分転換に日本庭園に足を運んでいたことがある。
 だから、決して嫌いではない。
 だけど……。

「どうして、俺が君の好みを知っているのか疑問に思ったようだな」
「ええ――」

 彼の言葉に私は素直に頷く。
 それに草薙雄哉と言う名前も、何だか分からないけど胸の内に引っかかる。

「さて、まずは座ってくれ――。日本庭園には、日本風のお茶や和菓子が似合うからな」
「はい。ですが――」
「時間なら気にしなくていい。カミナムライが、エルノの町を襲うことはしないからね」
「カミナムライ?」
「ああ。メディデータが住まう町を襲おうとした機械のことだ。こちらの方で停止させておいたからな」
「停止? あれは――」
「誤解はしないでくれ。君が以前に話していた時よりも、君の力が強かったために誤作動を起こしてしまったんだ。本来は、ファフニールとその眷属に対抗するために作られた物にすぎないからな」
「え!? そ、それって……」

 彼の言葉に私は唖然としてしまう。
 
「君がダンジョンを攻略するとは聞いていたから、生体認証と音素認証は組み込んでいたが、まさか――、神核を利用した魔法を展開できるとは知らなかったからな」

 神核? それよりも――。

「あ、あの――。わ、わた……、わたしのせいで……大勢の人が――」
「――ん? ああ――。言い方が悪かった。別に君が悪いわけではない。不幸な事故に過ぎないということだ。こちら側としても、資格者が来るまでは外部に干渉する機能は制限されていたからね」
「それでも! 私が魔法を使ったから!」
「落ち着き給え。そもそもメディデータは修復が容易だ。修復用のデバイスをあとで君に渡そう。それで修復できる物もあるはずだ」
「物って……」

 彼もエルフさんと同じように人間を物のように考えていることに嫌悪してしまう。

「俺のことを嫌悪するのは構わない。だが、部下から話を聞いているのだろう? 今、地上に住まう人間は私と君の手で作られた惑星環境改善デバイスに過ぎない。つまり、君も責任の一旦を背負っている」
「そ、そんな……」


 

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