公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(17)




 ――プイ。
 
「ほら、怒ってしまいました」
「きちんと謝罪したはず……」

 ま、まさか……。
 この人……。
 最初からチャラい男のイメージがあったけど、実は女性に対する接し方を分かっていないだけなのでは?
 ――と、疑問に思ってしまう。
 
「一度、落ち着きましょう。私は、この場所について何も知りませんし何が起きているか分かりません。よってコルクさんが何か余計な詮索をしてきてもお答えすることは私に無理です。――そう、聡明な私でも無理なのです」
「じ、自分で聡明とか……」

 ――キッ! っと、強い目線で笑いかけたコルクさんを睨みつけておく。

「コルク。今のは貴方が悪いです。それよりも、本当に何も知らないのですか? ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと名前が書いてあったのに……」
「はい、知りません。私も事情を知りたいくらいです。ですので、ここで話をするよりも先に進むことを優先にしましょう」
「……わかった」

 コルクさんは、懐疑的な表情のまま、本当に致し方ないといった表情で頷く。
 そんな彼をレオナさんが溜息交じりに見ていた。

「とりあえず、向こうに建物のような物が見えます。まずは――」
「そうだね」

 レオナさんの言葉に彼は同意する。
 二人は歩きだし、私はその後ろを追従するがごとく着いていく。
 時折、レオナさんが後ろを振り返り私を見てくるけど、気になるのなら殿をすればいいのにと思ってしまう。

「ずいぶんと大きな建物ですね」

 しばらく歩いて到着した建物は、地球でいう所の東京ドームのような形をしていた。
 色合いは全体的に白く建物の入り口であろう場所には、建物名というか用途名が書かれたレリーフが置かれている。

「これは……、神代文字――」

 途中で、コルクさんが私の方を見てくる。
 つまり、私に読めということなのだろう。
 仕方ないから読んで――、え!?

「これは……」

 私はレリーフに書かれている文字を読んで声に出すことを躊躇する。
 そこには環境開発実験センターと書かれていた。
 つまり、ここは……。

「何て書いてあるんだ?」

 私が沈黙していたことを不審に思ったのかコルクさんが話しかけてくる。
 たしかに、神代文明文字が読めるのは一行の中では私だけとは言え、少し急かしすぎでは? と、思ってしまうけど……、先ほど建物が見えた時にコルクさんとレオナさんは信じられない物を見てしばらく動けず驚いていたので、やはり私が黙ってしまうと不安になるのかも知れない。

「環境開発実験センターと書かれています」
「環境開発? それは何のことだ? レオナは分かるか?」
「私には、まったく――。そもそも環境というのはどういう意味なのでしょうか?」

 二人とも、環境開発という言葉に理解が追い付いていないようで。
 それもそのはず。
 だって、アガルタの世界では地球のように人間が惑星の環境を破壊するような事が起きないから。
 惑星の環境を破壊するには、文明レベルがある一定まで到達しないとあり得ない。
 つまり、環境開発と言う言葉は、文明度の高さが無いと人には理解されないのだ。
 
「ユウティーシア」
「何でしょうか?」
「君は、台座に刻まれた文字を読んだ時に一瞬だけ顔色を変えたのを俺は見た。君は環境開発実験センターというのはどういう所なのか知っているんじゃないのか?」
「知りません」

 そもそも、ここで環境破壊の話をしたところで彼や彼女の疑問に答えられるとは到底思えないし、何よりもそんなことで時間を費やしている場合ではない。
 こうしている間にもエルノの町は危険に晒されているのだから。

「先に行くと危険だぞ!」

 二人を置いて先に進もうとすると後ろから手首をコルクさんに掴まれた。
 
「――痛ッ!」

 彼に掴まれた腕に痛みが走る。

「す、すまない……」

 彼が慌てて離してくれたけど、手首はうっ血していた。
 普段から身体強化魔法を使っている体なら問題はないけど、今の私の体は一般の成人女性よりも脆い。
 もう少し労わって接してほしいと思ってしまう。

「別にいいです。コルクさんは、最初に気の利く殿方だと思っていましたけど、一緒に行動をして何も考えていない女性のエスコートの仕方も知らない殿方だと分かってしまいましたから……」
「――!」

 


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