公爵令嬢は結婚したくない!
記憶と思いと(16)
しばらく降下していたエレベーターがようやく停止し扉が左右に開いた。
「真っ暗だね」
コルクさんが、持ってきた松明に火をつけながらエレベーター内から出ていく。
「ほ、本当ですね」
レオナさんは、腰の吊るしてある帯剣に手を添えながらコルクさんの後を追うようにして外にでる。
最後に私がエレベーターから出たところで辺りが眩しいほどの光に照らされた。
眩しさに手で目元を守りながら周囲を見渡す。
「――襲撃か!?」
コルクさんが、持っていた松明を投げ捨てるとすぐに腰から剣を抜き放って正眼に構える。
レオナさんもすでに剣を構えており、いままで見てきた兵士や騎士とは二人が一線を画す力量を持っているのが分かってしまう。
「……ここは、地下空洞……なの……か?」
「その割には、木々や草花が存在しています」
二人とも茫然とした表情で周囲を見渡している。
もちろん私も、その広さに驚いている。
何せ、目測だけど高さが図りしれないほどあるから。
少なくとも1キロなどでは足りない。
後ろを振り返るとエレベーターは、透明なチューブの中に入っている。
しかも、そのチューブは遥か上空まで続いていて、遠近感を狂わせるほどで……。
「何も害はないようだな……」
「はい……」
二人とも剣を鞘に納めながら、それでいて私の方を見てくる。
「どうやら、ここの機能は君を見ているようだ。俺やレオナが先に進んで何も反応しなかったことがその証だろう。だが……」
「コルク……、彼女は以前にエルノのダンジョンを攻略したことがあるとカベル海将様より聞いております」
「それは俺も冒険者ギルドで聞いた。だから、最初に彼女に絡んでいた男を放置していたんだが……」
「助けなかったと?」
「助けたさ。助けて欲しそうにしていたから」
「そうですか」
「ただ……、ダンジョンをクリアできるほどの実力者なら外見からでもそういった雰囲気が分かるものだろう?」
「魔力欠乏症らしいですが?」
レオナさんの言葉にコルクさんは左右に頭を振る。
「君だって魔法剣士なのだから見れば分かるだろう? 普通の人間なら魔力欠乏症に陥ったら魔力が回復するまで生命維持に魔力の大半を使われてしまう。それなのに彼女は上級魔法師クラスの力を有している。これが、どれだけおかしな事か分からない訳でもないだろう?」
「それは……、彼女の魔法力が桁違いだからなのでは?」
「なら彼女の魔法力は……、人間を超えていることになるんだぞ……」
「あ、あの……、先に進みませんか?」
どうも二人とも話が堂々巡りしているようで、無駄に時間を消費しているように思えてならない。
私としては、早く蜘蛛の形をした機械の情報と、何故に私の名前が書かれていたのか、そして日本語が使われていた意味を知りたい。
だから、こんなところで時間を浪費したくないのだ。
「――率直に言うよ」
コルクさんが溜息交じりに私を見てくると。
「君は、この神代文明時代の遺跡や昇降機のことを何か知っているんじゃないのかい?」
「いえ、全然知りません」
ノータイムで! 即答する。
だって本当に知らないのだもの。
エレベーターは知っているけど遺跡のことなんて何もしらないし神代文明も知らない。
私の好きなアガルタ旅行記で読んだ本の中で一番古いのは、聖女シャルロット・ド・クレベルトが出てくる物語で、聖女が勇者と共に邪教と、それを裏で操っていた魔王を倒す物語で……、それは、今から2千年前くらい前のお話。
それでも、殆ど抽象的な内容で突っ込みどころ満載。
物語としては面白いけど、それが事実であるかどうかまでは判断が付きにくい。
「そ、そうなのか……。本当に? そうか……。何か関係があると思ったんだが……。それに……、君は幼い頃は聡明な子供だと話に聞いていたが……」
「……」
待って! 今、幼いころは聡明な子供だって言ったわよね! 今は、聡明じゃないの!?
――そ、それに……。
どうして……、幼いころの私の情報は誰も知らないはず……。
ウラヌス公爵様以外は……。
自問自答していると。
「コルク。その言い方だと……」
「――あ……」
レオナさんに釘を刺されて彼も気が付いたみたいだけど。
もう少考えて発言してほしい。
だって私の聡明さは昔も今も変わらずなのですから。
「言い方が悪かった」
思ったよりも素直に彼は頭を下げてくる。
「子供の頃は聡明でも大人になれば誰でも凡人になることはある。気にする必要はないと思う」
「――ッ!?」
この人、謝る気がないのでは!?
コメント
クルクルさん/kurukuru san
久しぶりにティアが明るくなった気がする。なんか嬉しい( *´︶`*)