公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(15)




「これは……、昇降機か……」

 声のした方へ振り向くと、コルクさんが扉の中を見ていた。
彼は、私の視線に気が付くと「いや、何でもない……」と答えてきたけど、明らかに今、彼は……、このアガルタの世界では存在しない物を当然のように言っていた。

 ――ただ、あまりにも小さな声だったから私達二人と離れていたレオナさんは気が付いていなかったみたい。

「これは何なのでしょうか……」

 レオナさんが、首を傾げながらも扉が開いた部屋へと足を踏み入れていく。
 やはり好奇心には勝てないと言う事なのかもしれない。
 そんな私もやっぱり好奇心に勝てずに中へ入る。

 中は想像していたよりもずっと広い。
 広さとしては、6畳くらいはあるかも……。

 レオナさんが壁をコンコンと叩きながら「壁は何らかの金属で出来ているようですね。鉄ではないようですが」と不思議そうな表情で壁を眺めていると「この壁を加工したらいい武器か鎧が出来そうですね」と、一人呟いていた。

「……」
「何か?」
「いえ、何でも……」

 レオナさんが、ジッと見ていた私の視線に気が付いて話しかけてきた。
 私は何もないように装いながらも部屋の中を見ていく。
 さっき、コルクさんが発していた昇降機という言葉が確かなら、地球のエレベーターは出入口付近にボタンがあったはず。
 まずは出入口付近を見ることにする。
 たしかにボタンが4つ並んでいる。
 
 ――それにしても、ボタンには【閉】【開】【▲】【▼】の文字が書かれていてまるで地球でいう所の工場か小さな家で使われているエレベーターのように感じられてしまう。
 
「特に何もないようですね」

 私が物思いに耽っているとコルクさんがエレベーター内に入ってきた。

「コルク、何かしていたのですか?」
「いや、何も――」

 彼は、それだけ言うとエレベーター内を見渡し、私がさっき見つけたボタンを注視した。

「そういえば先ほど、昇降機と言っていましたがコルクは何か知っているのですか?」
「――ん? ああ……、これは神代文明時代に移動に使われていた物だ」
「移動に?」
「そう。ここにボタンがあるのが見えると思うが、このボタンを押すと……」
「と、扉が――」
「そう、閉まることになる」
「――こ、これは……、罠では!?」
「罠じゃない。ほら、このボタンを押せば開く」
「と、扉が……、ひとりでに……」

 レオナさんは、閉まった扉の隙間をジッと見ている。
 一体、何をしているのか……。

「レオナさん。何をしているのですか?」
「いえ、扉が開いたり閉まったりしたので誰かが隙間に隠れているのかと思ったのですが……」
「ああー」

 私はレオナさんの言葉に心の中で「なるほど!」と、相槌を打ってしまう。
 そうか……。
 科学というのを知らないと、中世時代の文明力だと、そう考えてしまうのね! と、思ってしまう。

「ユウティーシア様?」
「いえ、何でもないです。それよりも移動に使われているものでしたら早く使いませんか? エルノの町を襲おうとしている魔物の対処を含めて私達には時間がありませんから」
「そ、そうですね……」

 レオナさんが、少しだけ寂しそうな雰囲気を見せたけど、怪我をした人たちや、これから怪我をする人達のことを思うと時間を浪費するわけにはいかない。

「それじゃ扉を閉めるよ」

 コルクさんは慣れた手つきでボタンを押すと扉を閉めて【▼】のボタンを押す。
 一瞬の浮遊感のあと、エレベーターはゆっくりと下方していく。
 エレベーターが下へ降りていく間、「体が浮きました」と、レオナさんは驚いていたけど、それよりも気になったのはコルクさんがずっと私を見てきていたこと。
 
 何か彼には思うところがあるみたいだけど……。




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