公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(14)




 巨大な機械の化け物が出ていった入り口は大きく拡張されていて、階段は無残にも崩れ落ちている。
 その中を、コルクさんを先頭に私、レオナさんの順番で降りていく。
 20メートルほど斜面を下ったところでようやくダンジョンの床に足を付ける事が出来た。

「それにしても、ダンジョン入り口が壊されるとは思いもよりませんでしたね」
「正直言うと、俺もこんな事になるとは予想していなかった。ダンジョン外と内部は時空が隔たれている。それを破壊するということは、それだけ強い力になるが、これは……」

 レオナさんの言葉にコルクさんは肩を竦めながら答えている。
 私は、それを横目で見ながら下ってきた斜面に指先を這わせていく。
 下っている時に気が付いたけど、崩れて剥き出しになった岩盤と思われている場所は微細な魔力石が固まっている。
 魔力を殆ど感じる事は出来ない。

「斜面がどうかしたのか?」
「これって魔力石ではありませんか?」
「魔力石だって!?」

 コルクさんは、驚いた様子で私の傍まで近寄ってくると斜面を注視する。

「本当だ。魔力を内包していないが、これは間違いなく魔物から手に入れる事が出来る魔力石だ。だが、細かすぎる。一体、これは……」
「たしかに魔力石の破片というか粉ですね。よく気づかれましたね」
「偶然です」

 私は二人に答えながら斜面から離れる。
 小さい頃から魔力石に自分の魔力を入れて白色魔宝石と言う稀少鉱石を作ってきた私だからこそ感じ取れただけで、特別な事ではない。
 きっと触れなければ分からなかったと思う。
 何故か触れた時に、おかしいと直感的に感じ取ってしまったのだ。
 
「そうか……。迷宮の作りも大事だが、その前に君の名前が書かれている石碑まで案内することが先決だな」

 私は、コルクさんの言葉に頷く。
 コルクさんが先行する形でダンジョン内を歩いていく。
 殿を務めるのはレオナさんで、真ん中には私が居る。

「距離的には、どのくらいなのですか?」
「床に記号が彫ってあるだろう? それは迷わないように俺と他の冒険者で掘っていった後になる」

 彼の言葉に「なるほど」と、頷きながら着いて行くと30分ほどで石を組み上げただけで作られたダンジョンとはまったく異質の建造物が見えてきた。
 それはまるで……。

「ここの石碑を見てくれ」
「石碑ですか?」

 彼の指さす場所へと視線を向ける。
 そこには半透明な石板のような物に文字が書かれていた。

「触ろうとしてもまったく触れることが出来ないんだ。これは一体、何なのか……」

 私が見ている中、レオナさんやコルクさんが半透明な石板に触ろうとしても手がすり抜けてしまうばかりで触れることが出来ずにいる。
 それを見て、私は思わず「ホログラフィー?」と、呟いていた。

「君は、これが何か知っているのか?」
「ホログラフィーのように見えます」
「ホロ――、なんだって!?」
「ホログラフィー。つまり、空間上に物体が存在するかのように見せかける技術のことです」
「技術? 一体……、君は何を言って……」

 コルクさんは疑問を浮かべながら私に問いかけてくるけど、私だって全てを知っている訳ではないし、前世の知識からそう判断したに過ぎない。
 それに、ホログラフィーはホログラムや再生照明光、それに再生像なども必要となってくる。
 周囲を見渡しても、そのような物が見当たらないことから地球のホログラフィーとは異なった技術だというのが私の見解だけど……。

「えっと……」

 たしかに、石碑にはユウティーシア・フォン・シュトロハイムと書かれている。
 
「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。君が、この石碑を見ているということは来るべき時が来たということなのだろう。まずは、手を石碑にかざしてほしい」
「下の文字が読めるのか?」
「ええ――」

 コルクさんの言葉に私は頷きながらも動揺を必死に隠す。

 私の名前は、ローレンシア大陸で使われている共通語であった。
 だけど、その下に書かれている文字。
 【君が、この石碑】の部分から下は、全て日本語で書かれている。
 つまり、これを作ったのは日本人の可能性が非常に高い。
 
 それに来るべき時が来たという意味。
 それが、何を差し示しているのか……。

「大丈夫なのですか?」

 レオナさんが神妙な表情で私を見てくるけど、ここまで来たら後には引けない。
 私は、空中に描かれていた石碑に手を翳す。すると「ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと確認しました。ゲートを開きます」と、言う声がダンジョン内に響き渡り、場違いだと思われていた扉が左右に音も立てずに開いた。




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