公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(13)




「分かりました」

 自分が、どうして起きていた出来事を忘れているか分からない。
 だけど……。

「いまもアクアリードさんやメリッサさんを傷つけた魔物がエルノの町に近づいて来ているのですよね……」
「はい。一言言っておきますが、魔物討伐に関しては騎士団や兵士、そして協力している冒険者に任せた方がいいです」

 本当は、二人の仇を取りたい。
 そんな私の心理を読みとったのかレオナさんは先回りして静止してきた。
 
「納得行かないと思いますが、いまの貴女が行っても戦力になるどころか御身を気付かられて戦場に混乱しか生まないでしょう」

 彼女の言い方に私はギリッと奥歯を噛みしめる。
 言われなくても分かっている……、だけど……、だけど……。

「貴女は、貴女のすることがあるのですから、まずはそれをするべきでしょう」
「優先順位をつけて行動しろということですか……」:
「はい」
「…………わかりました」

 そこまで言われて納得できないほど子供ではない。
 
「それでは、すぐに向かうとしましょう。コルク! 貴方は、どうしますか?」
「一緒にいく。先に馬車で待っていてくれ」
「わかりました」
「それではいきましょうか」

 彼女の言葉に頷いたあと私とレオナさんは馬車で待っているとコルクさんが姿を現した。
 コルクさんが馬車に乗り込んだあと、すぐに馬車は走りだす。
 町の中を走ると分かる。
 先ほどよりも通りが混んでいることに。

「魔物は、どのくらいで攻めてくるのですか?」
「偵察の兵士からの話ですと、遅くても数時間以内には――」
「それでは、私達がエルノのダンジョンに到着するくらいには?」
「そうなります。早く向かった方がいいかも知れません」
「あれは普通の魔物じゃない。ユウティーシア、君をダンジョンが待っているということは……」
「コルク。憶測を語るのは――」
「憶測じゃない。総合的に、かつ客観的に見た事実から推測しているだけだ」
「――つまり、あの魔物は私と何らかの関係があると言う事ですよね?」

 彼が頷くのを見ながら、私だって思っていたと心の中で同意しておく。
 そもそも私の到来をエルノのダンジョンが待っているのなら、その際に出てきた魔物だって普通の生物とは掛け離れたもので、それが私と何の関わり会いも無いという方がおかしな事で……。

「分かっているならいいよ」

 彼の言葉を聞きながら私は視線を馬車の外へと向けた。



 馬車がエルノのダンジョンに到着したのは、それからしばらくしてからであった。
 
「気をしっかり持ってください」
「やれやれ」

 先に下りたレオナさんが私に話しかけてくる。
 彼女の手を借りながら馬車から下りた私が最初に見た光景は、その風景は……、凄惨な物だった……。

 多くの死体に、欠損した体の部位――、そして血だまりが至るところにあって……。
 そして風に乗って血臭が辺りに立ち込めていた。

「うああああああ……」

 見た瞬間、脳裏に蘇ってくる。
 エルノのダンジョンから魔物が出てきた光景が――。
 冒険者ギルドで、冒険者に絡まれた時にコルクさんが助けてくれた様子が……、全て記憶が……、一気に流れこんでくる。

 気がつけば地面に両膝をついたまま私は嗚咽しながら吐いていた。
 吐きながら一体、どうして私は、こんな大事なことを忘れていたのかと自問自答する。
 
「私は……、私は……、一体なにを……、どうして忘れて……」

 心が壊れそうで……。
 もう耐えられない。
 
「これが現実です」

 蹲っている私にレオナさんが語りかけてくる。
 その声色からは優しさなんて一切排除されていた。

「現実……。こんなものが……、こんなものが許されて言い訳が!」
「許されるのです。相手が圧倒的な力を持っていれば弱者は抗う術を持ちません。力の前には正義なんて意味を成さないのです」

 彼女の言葉に私は無言になってしまう。
 言われて……、凄惨な現場を見せられてようやく私は理解した。
 ようやく理解出来てしまった。

「私は馬鹿だ……」

 魔物も私もやっている事は大差がないことである事にようやく気がついた。
 私が本来持っている強大な魔力も魔物の力と大差がないことに。
 ただ……、それは……。

「貴女が何を考えているのかは分かりませんが……」
「何度も言わなくても分かっています!」

 私がすることは、エルノのダンジョンの謎を解く事だから。
 



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