公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(11)




 ――でも、信じられない。
 私が記憶障害なんて……。
 だって、今までそんな事は一度も無かったはずだし。

「コルク・ザルト。彼女は、凄惨な記憶を自分で封印してしまっているようです」
「――なんだって!? それじゃ、今がどういう状況なのかも知らないってことなのか?」
「そのようです。どうやら、そのことをカベル海爵位様の執事は隠してエルノの町から逃がそうとしていたようですが」
「そ、そうなのか? だが、いいのか? そんな事を、大勢の目があるこんな場所で話しても」
「問題ないでしょう。遅かれ早かれ広まることでしょうし、それに……」

 コルクという男性とレオナが話しているのを聞きながら私は顔を上げていた。
 すると一旦、話が終わったのか二人とも私の方を見てきている。

「私は、自分の過去から逃げるような人間を守るつもりはないので」
「なるほどね。ルグニカ王家には、魔法騎士団が居ると話しには聞いていたけれど……、ようやく思い出したよ。その中でも王族を毛嫌いしているが魔法と剣の腕は確かな代々王族に使える一族の人間が居るとね」
「リメイラール教会の諜報からの情報ですか」

 溜息を洩らしながらレオナさんは呟いている。
 
「さてね」

 飄々といった感じでコルクさんは肩を竦めると、私の方へ手を伸ばしきた。
 私は振るえる手で彼の手を取ると彼は私を起き上がらせてくれる。

「レオナが何て言ったかは知らないけど、アクアもメリッサも何とか息を吹き返したよ」
「そ、そうなのですか?」
「二人の容体は?」
「冒険者になった元・リメイラール教会神官の話だと、もって半日と言ったところらしい。それまでに上級魔法師で回復が得意な魔法師に体の欠損部分を直してもらうしかないらしいが……」
「絶望的ですね」
「どういうことですか?」
 目の前に、一緒に何度も旅をしていたメリッサさんが居ると言うのに助けられないという言葉に私は苛立ちを募らせてしまいレオナさんの発言した絶望的という言葉に私は思わず反応していた。

「そのままの通りです。回復魔法を独占しているリメイラール教会の冒険者が怪我人を見て半日しか持たないというなら、それは間違いないのです。その見立てを覆すためには教会冒険者よりも強い回復魔法を使う必要があるのですが……」
「――あ……」

 彼女の言葉の意味が理解出来てしまった。
 直接的な言い回しは避けていたけれど、レオナさんは話している間、ずっと私を見てきていた。
 そして、その瞳に映っていた色の意味がようやく分かった。

「私が……、魔力欠乏症で無ければ……」
「そうですね。貴女が、私が聞いていた通りの人物で力を持っているのなら救えたかも知れませんね」

 ――聞いていた?
 一瞬、妙な言い回しに私は思考を寸断されてしまう。

「とにかく私達がすることは……、選択肢は限られています。それより、コルク・ザルト」
「何かな?」
「貴方が丁度良かったと私達に話しかけてきた理由を聞かせてもらいたいのですが? 回復などに私達の力を欲しいという理由ではありませんよね?」
「もちろんだ。ダンジョンで、あの鋼鉄の化け物と出会って隊が分断されたあと、S級冒険者とA級冒険者はダンジョン内を逃げていたんだ。そこで、見た事がない扉が存在していた」
「扉? ダンジョン1階でですか?」

 二人の会話についていけない。
 ダンジョンの基本すら知らない私には当然のことであったけど、何より自分の魔力が足りないことで人を助けることが出来ない無力感に私は苛まれていて、話している内容を理解する気にならなかったから。

「ああ、ダンジョン1階の扉の前に石碑があったんだが……。そこには神代文明文字でユウティーシア・フォン・シュトロハイムを待つと書かれていたんだ。だから冒険者に聞いてユウティーシアという人物を調べたんだ」
「それで私を探していたのですか?」
「ああ、今回の一連の騒動は君にも何かあると思っているんだ」
「コルク。そのことはギルドマスターやカベル海将様には?」
「報告はしていない。二人ともティアを傷つけないように動いている節があるからな」
「なるほど……。たしかに、シュトロハイム公爵家令嬢が怪我などしたら戦争に成りかねませんからね。だから黙っていたのですか?」
「そうそう。ここで会えたのは偶然だったけどね」
「そういうことですか」

 レオナさんは、仕方ありませんねと呟くと「それではユウティーシア様、ダンジョンまで行くとしましょうか」と、語りかけてきた。




 

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