公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(2)




「すまない。言い過ぎてしまったようだ」
「いえ、私こそ……」

 私は謝罪してくる彼の言葉に居心地の悪さを感じながら受け入れた。
 カベル海将様は、私のことを案じているのは倒れてから感じているし、私が転生者だと知らないのなら彼が私に語り掛けてくる言葉も強ち間違っているとは言えない。
 それでも……、心のどこかで彼の「自分の意志だと勘違いしている」と言う言葉だけは胸の奥に残った。


 結局、大した気分転換にもならずに馬車はカベル海爵様の邸宅へと到着した。
 執事の方の手を借りながら馬車から降りると先に降りていたカベル海爵様が、メリッサさんから何か封書みたいな物を受け取っている。

「――あっ!? ユウティーシア様」
「メリッサさん。町に戻ってきたばかりなのに御仕事ですか?」
「はい。グランカスさんから、預かった手紙を届けに来たんです。本当に、うちのギルドマスターは人使いが荒くてー」
「そうなの? それなりに部下思いな人だったような……」
「いまは緊急事態ですからね。休暇を取ろうとしている冒険者も無理矢理招集を掛けさせられているのです。私やアクアリードは一週間近く任務をこなしていましたから、軽い仕事を振られていますけど」
「ユウティーシア嬢。グランカスが君に用事があるそうだ。今から向かおうと思っているが大丈夫か?」
「はい。問題ありません」

 馬車に乗りなおして冒険者ギルドの建物についたのは30分後であった。
 煉瓦作りの建物の中にすぐに通されると杖を持ったマントを羽織った人や帯剣をしている鎧を着た兵士に白いマントを頭から被っている人が一斉に私を見てきた。
 その中から一際体の大きな身長が2メートル近くある殿方が近づいてくると私を見下ろしてくる。

「こいつが魔法師? お前らより強いのか?」
「ケイン、貴方よりずっと強いですよ?」
「本当かよ。どう見ても戦いに向かない面構えをしているぜ。それに……」

 男性の粗暴な雰囲気にリースノット王国の王子に乱暴された時の記憶が脳裏に浮かんでくる。
 体を硬直させたところで、後ろから腕を引っ張られた。
 
「女性に対して許可なく触ろうとするのは感心できないね」

 一瞬、カベル海将様かと思ったけれど、頭の上から聞こえてくる声色は彼とは違って若々しい。
 
「だれだ!? 見たこと無い顔だな? 新入りか?」
「新入りじゃないさ。それより彼女に手を出すのは止めた方がいいと思うよ」
「どういう意味だ?」

 私を庇ってくれたのか、男の関心が庇ってくれた殿方へと向かったところで「遅くなってすまないな」と、見知った声が聞こえてきた。

「カベル海将様」
「――ん? どうかしたのか? ハーゼル、貴様……、まさか俺の客人に手を出そうとしている訳ではないよな?」

 2メートル近い大男が「くっ――」と、呟いたあと冒険者ギルドから逃げ去っていく。
 どうやら喧嘩にならずに済んだみたい。

「あの、ありがとうございました」

 振り返りながら頭を下げる。
 
「いや、当然のことをしたまでだよ。それよりも、少し休んだ方がいいんじゃないのか?」
「……いえ、大丈夫です」

 気が付けば手が震えていた。
 彼は、私の様子を見て語り掛けて来たのかも知れない。

「それじゃ保護者の方も来たようだし、俺は行くよ。また、どこかで会えたらいいね」
「あの、お名前は……」
「俺の名前?」

 殿方の言葉に私は頷く。

「あまり名乗るのは好きじゃないんだけど、君みたいな美人から聞かれれば答えない訳にもいかないね。俺の名前はコルク・ザルト」
「コルク・ザルト様ですか?」
「様はいらないし、コルクでいいよ。俺も君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「えっと……」

 ここでフルネームを名乗るわけにはいかず「ティア」と名乗っておく。

「ふーん。ティアね、見た目は美人なのに可愛いらしい名前だね。ところで後ろで睨みつけてきている人に俺は無害だと説明しておいてくれると助かるんだけどな」

 彼は、それだけ言うと冒険者ギルドの建物から出ていった。

「コルク・ザルトか」
「カベル海将様、彼を知っておられるのですか?」
「ああ、だが君には関係はないと思う。それよりもグランカスに会いに行くのを優先しよう」
「……わかりました」

 納得できない部分は多々あったけれど。メリッサさんが言っていた緊急事態という言葉も気になったので冒険者ギルドに勤めている係員の方に冒険者ギルドマスターの部屋案内してもらう。

「来たか。ずいぶんと遅かったな?」
「貴様の所に登録している冒険者に絡まれていたんだ」
「ハハハハ。海爵ともあろう者が、冒険者に絡まれるとはな!」
「俺じゃない。ユウティーシア・フォン・シュトロハイムが絡まれていたんだよ」
「――なっ!? 絡んだ冒険者は生きているのか?」

 二人が話をしている間に部屋に入る。
 するとグランカスさんが私を見て「本当にユウティーシア・フォン・シュトロハイムなのか?」と聞いてきた。

 

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