公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(1)




 現在、私とカベル海将様が乗っている馬車は、衛星都市エルノの町中を走っていた。
 理由は、私が魔力欠乏症の為にしばらく安静が必要な事もあったけれど、それ以上に住民に影響を与えないとカベル海将様が判断されたから。

 目を覚ましてから2日ほど寝ていた私は、魔力欠乏症に掛かることは無くなったけど魔法が使えない状態が続いている。
 当初、私自身が考えていた事よりも遥かに問題だと落ち込んでいたことに彼が気を遣ってくれたことも要因の一つかもしれない。
  
「ユウティーシア嬢」
「…………は、はい!」

 ぼーっと、カベル海将様が用意して下さった馬車に揺られながら、窓越しに流れる町の風景を見ていた事もあって彼の言葉にすぐに返事ができなかった。

「体調はどうかな?」
「そうですね」

 私は、【身体強化魔術】を展開するときに自分の体を意識して細胞単位で強化することにしている。
 その際に思ったことは、自分自身の肉体の状態を大まかに判断できるようになったと言う事。

「欠乏症が起きてからは殆ど変わっていないと思います。熱は引きましたけど……」

 カベル海将様は、私の答えに特に気分を害する様子もなく「そうか」と、答えてきた。
 彼が何を考えているのか私には知る術はないけれど、正直言って、このままの状態なのは非常にまずいと私は思っている。
 何せ王位簒奪レースには私の魔法というのは必要不可欠だから。
 はぁー、本当に私はどうしたらいいのかな。

 そんな私を気遣うようにカベル海将様は、「まぁ、ユウティーシア嬢としては魔法が使えなくなって方が良かったかもしれないな」と、語りかけてきた。

「――え?」

 私は、彼の言葉に一瞬、頭が真っ白になってしまう。
 カベル海将様だって、王位簒奪レースには私の魔法が――、私の存在が必要不可欠だと理解しているはずなのに、どうしてそういう軽はずみな事をいうのかと――。

 私は顔を上げて彼を見る。
 すると彼も私を見下ろしてきていて、視線が絡み合う。
 彼に、私が魔法を使えなくなった事に関して何が良かったのか問いただそうとしたところで「君は何か勘違いしているのではないのか?」と、カベル海将様が語り掛けてきた。

「どういうことでしょうか?」
「ユウティーシア嬢。君は自分が言っていた事を忘れたのか? 海洋国家ルグニカは、そこに住まう人々が国を治めるべきだと。その為に、君はアルドーラ公国にもリースノット王国にも軍事的、経済的にも打診をしなかった。そうだったな?」
「……はい」

 それは、私が以前に彼に言った言葉。
 その国は、その国に住む人間が政を行い、経済を回して国を運営する。
 だけど、そこに至る道――、王位簒奪レースに勝つ為には私の魔法は必要で……、ミトンの町を防衛するにも力が必要。
 それなのに、魔法が使えなくなって良かったなんて私には思えない。

「その顔を見ると理解していないようだな」
「……私が、私には力が必要です。そして私が居なければ王位簒奪レースに勝つことはできません。それなのに魔法が使えなくなって良いと言うのは無責任ではありませんか?」

 私の反論にカベル海将様は、眉間に皺を寄せる。

「力か……。力は大事かも知れないが、君は他人の力を宛てにしているように見えて全て自分で何かを為そうとしていないか? 私が居なければ? たしかに君の魔法は強い。だが……、君は全てが終わったあとに海洋国家ルグニカから出て行こうと考えていたのだろう? 君は君自身のことをどうしたい? 魔法師ではない。ただの一人の女として……。いや、そうではないな。一人の普通の人間として、君は君自身をどう思っているのだ?」
「……私が、普通の人間として……ですか……」

 そんな事、考えたこともなかった。
 転生してきてから私は、王家に嫁ぐことに決まっていたし、何より強大な魔力に魔法が使えるようになってからは、殆ど自分で物事を解決してきた。
 
 ――それは、一人の無力な人間が到底解決できない問題が多い。
 だけど……。
 私は、そのことに関して気にすることは無かった。
 何故なら私には強大な力があるから。
 そして力と言うのは他者を良い意味でも悪い意味でも引き付ける。
 
「うむ。こう言っては何だが、私には君は自身を大事に扱っているようには思えないのだ。周りに流されているだけのように見える。そして、それを自分の意志であるかのように勘違いしているように――」
「そんなことありません!」

 私は、思わず声を荒げてしまった。
 



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