公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

商談(2)




 現在、馬車は衛星都市エルノの北通路門を通って商業エリアを走っていた。 

 衛星都市エルノの北には港が存在している。
 大型のガレー船の発着を想定しているからなのか桟橋の間隔も大幅に取られているが目につく。
 
「船は無いのね」
 
 異世界に転生してからというもの大型の帆船を何隻か見てきたことはあったけど、落ち着いてみたことが無かったので少し残念に思ってしまう。
 
「はい。かなり前から王位簒奪レース開催が衛星都市スメラギで予定されていたので、足の速い船はそちらに移動していると思います」
「そうなのですか?」
「はい。衛星都市エルノから衛星都市スメラギまでは、海岸線沿いを一周しなければなりません。最低でも2か月近く掛かってしまいますので」

 メリッサさんの言葉を聞きながら「なるほど」と、私は頷きながら外を見る。

「そういえば軍船の姿が見えませんね。武装している兵士の方は見られますが……」
「王位簒奪レースの時期は、王都ルグニカから東方に軍艦を集めるのが慣例になっているのです。何せ海洋国家ルグニカは、帝政国とは仲が悪いですから」

 たしかに……。
 海洋国家ルグニカの北に位置する帝政国は純血種を尊ぶ貴族至上主義な大国で、神代文明時代からの遺産が現存している歴史ある国でもある。
 それに対して海洋国家ルグニカは、もともとは帝政国の貴族を含む商人から略奪を繰り返した金品を元に海賊たちが建国した国。
 国の成り立ちからして仲が良いとは言えない。

「――でも、そうすると他領の帆船もスメラギに移動している可能性が考えられるわね」
「前回のレースでは半年前には開催港に船が到着していたそうです」
「そうなのね……」

 つまり、私が海洋国家ルグニカに到着した頃にはすでに船はスメラギに集まっていたと言う事になると。

「それは……」
「どうかしましたか?」
「いえ――」

 王位簒奪レースに出るためには、船の用意が必要になるけど、今はまだ船の用意が出来ていない。
 建造は初めているけどミトンの町だけでなく周辺の村の職人の力を借りても建造までには最低2か月は掛かる。
 どうしたらいいのかと考えたところ馬車が停車すると扉が開いた。

「マルスさん。お久しぶりです」
「以前は失礼な態度と取ってしまって申し訳ありません。私のような者の名前を憶えておいて頂けるとは――」

 頭を下げてくるマルスさん。
 彼は、カベル海将の執事さんで……、エルノの町から出るときに手切れ金を渡してきた人。
 印象が強かったから覚えていただけ。

 マルスさんにエスコートされて馬車から降りると多くの使用人が館の前に並んでいた。
 どうやら歓迎はされているみたい。
 それとも……、商談の前に好意的な印象を見せようとしているのか。
 どちらでもいいけれど、対話が断られることは無い事に安堵しながらマルスさんに案内されて以前にカベル海将と話した部屋に通された。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム公爵令嬢様をご案内致しました」
「ご苦労」

 マルスさんに短く声をかけるとカベル海将は私へと視線を向けてくる。
 その瞳には以前とは違って私を見計らうような光が見て取れた。

「カベル・ド・ルグニカです。以前は、失礼した」
「お久しぶりです。ユウティーシア・フォン・シュトロハイムです。今回は、商談を受けて頂きまして感謝いたします」

 スカートの裾を軽く摘みながら頭を下げると一瞬、部屋の中が静寂になる。

「これは……」
「どうかなさいましたか?」
「いや――。以前とは、ずいぶんと雰囲気が変わったように見えたのでな……」

 カベル海将は、頬を右指先で掻きながら答えてくるけど、私は自分自身がそんなに変わったとは思っていない。
 
「マルス。客人に軽食と飲み物の用意を」
「分かりました」

 マルスさんが部屋から出ていく。
 その後ろ姿を見たあと、勧められた椅子に座る。

「そういえば……」
「どうかしたのか?」
「エルノの町で起きていた病気に関して経過をお伺い出来ればと思いまして」
「その事に関しては君が居なくなってから3日ほどで改善された。そうで無ければ町の中に入れる訳がないだろう?」
「そうですね……」

 私とカベル海将が話している間に女性給仕が入ってくると軽めのサンドイッチがテーブルの上に並べられていく。
 
「馬車の中での長旅は疲れただろう? 何か口に入れたらどうかな?」
「ありがとうございます」

 彼の心配りに私は素直に頭を下げる。
 一週間と言う長旅だったこともあり新鮮な野菜などを口にしていない。
 殆どは保存食で賄われていたから味もそっけない物が多かったから、野菜を食べられるのは嬉しい。

「やはり、何か心境の変化があったように見えるが……」

 口にしていた物を飲み込んだあと、私は首を傾げながら「皆さん、同じような事を言われるのですよね」と、言葉を紡ぐ。
 私自身、何が変わったのか良く分からない。

「ああ。以前は、どこか尖った雰囲気を持っていたが今の君は、とても女性らしいと言えばいいのだろうか?」
「ええっと……」

 女性らしいと言われても体は女性ですよ?


 

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