公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

思いのかたち(7)




「ずいぶんと疲れているようだが大丈夫か?」

 入ってきたのはレイルさんで。
 
「そうですか?」
「ああ――、エルノの町から戻ってきてから、ずっと思いつめているように思えるからな」
「……それで――」
「そうだな。他の者に聞かれると不味いから、君を馬車に乗せた」
「…………」
「何か困った事があれば言って欲しいのだが? 君は、自身が思っているよりもこの町だけでなく、スメラギ地方では影響力のある存在だからな」
「最近、寝付けないだけなので大丈夫です。それよりもレイルさんは、きちんとご自宅に帰っているのですか?」
「妻もミトンの町の運営に関しては理解を示してくれている。今は、私事にかまけている余裕はないからな。それに、以前から同じようなモノだったからな」
「……そうなのですか?」
「ああ、他国からの侵略が無かったとは言え魔物は存在している。それらから民を守るのが兵士の役目だろう? 兵士はただ相手を殺す為に力を誇示している訳ではない。兵士は、その背中に居る力ない者を守るために存在しているからな。妻も、そのことは理解して一緒になってくれた」
「――奥様は、お強いのですね」

 レイルさんは、私の言葉に微笑みを返してくる。

「誰だって守りたいモノがある。その為に、町があり国がある。私が、家族を守るために兵士になったのと同じように、君も守りたいものがあるのだろう? そうじゃなかったら、ここまでミトンの為に尽力してくれてはいないだろう?」
「――それは……」
「無意識であろうとなかろうと君も私達と同じだ。守りたいものがあるから、動いてくれている。だからこそ、兵士だけでなく商工会議のメンバーや力を貸してくれているし、アルドーラ公国の者達も自国の民を守りたいから我々と取引をしているのだろう?」
「……そうですね」

 彼の言葉は重かった。
 私が、リースノット王国から出立した時に、レイルさんのような考えを持っていただろうか?
 あの時の私は自分の事だけ考えて国を出た。
 自分の置かれている境遇がどうしても納得できなかったから。
 
「隊長! 冒険者ギルドの者が来ました!」
「分かった。ユウティーシア、何かあれば相談してくれ。これから冒険者ギルドの者と打ち合わせをしてくるから、もうしばらく待っていてくれ」
「わかりました」

 レイルさんは、馬車から降りると扉を閉める。
 窓から外を見るとアクアリードさんとメリッサさんの姿が見えた。
 二人とも、レイルさんが近づくと頭を下げたあと真剣な表情でレイルさんからの話を聞いている。
 突然の依頼だと言うのに、嫌な顔一つ見せない。

「私は、何をして来たのかな……」

 たしかにリースノット王国は、私の伝えた知識により豊かになった。
 白色魔宝石で、軍力も底上げされた。
 でも――、それは全て地球の知識があったからであって……、私が何かを生み出したわけではない。
 急速に発展したリースノット王国は他国への影響力は強く、周辺国の大国であった海洋国家ルグニカやアルドーラ公国では、リースノット王国には国力では太刀打ちできない。
 軍事の面だけで言えば、この世界では三大国家の一つである軍事国家ヴァルキリアスと肩を並べていると言ってもいい。

 それによりアルドーラ公国は内乱の一歩手前まで行った。
 今は落ち着いてはいるけど、一度他国と繋がった貴族は問題を起こす可能性がある。
 国防の観点から言えば、これからもアルドーラ公国は水面下では色々と問題は発生すると思うし政治的取引だってあるかも知れない。
 
「私は馬鹿だな……」

 自分が起こした行動で多くの人が不幸になるかも知れないと考えずに、地球の知識を悪戯にリースノット王国で広めてしまった。
 もっと考えて取捨選択すれば他国に迷惑を掛ける事もなかったのに。
 自分達の生活が良くなればと広めたのなら、まだ言い訳は出来たのかも知れない。
 
 ――違う。
 きっと、それは間違っている。
 私は、どこかで誤ったのだ。
 そして、今も間違いを行おうとしている。

「本当、私って最低の人間だよね……」

 ミトンの町を守るという大義名分の為に、私は王位簒奪レースを利用して王位や貴族位を手に入れようと考えていて――、それは仕方ないと諦めている。何故なら私には時間がないから。私が居たら誰かを傷つけることになるから。

「本当最低ね」

 この期に及んでも、私は自分自身の事しか考えていない。
 いつもそうだ。
 私は、自分自身のことしか見ていない。
 なんて身勝手な人間なのだろう。

「ユウティーシア様」
「――は、はい?」

 考えごとをしていると名前を呼ばれた。
 いつ開けたか分からないけど扉が開いておりメリッサさんが馬車の中に入ってくる。

「おひさしぶりです。今回もよろしくお願いします」
「エルノの町まで、またお願いします」
「今回は往復ということで依頼を受けていますので」
「そうでしたか」

 私は、先ほどまでの考えを無理やり思考の隅に追いやりながら笑顔をメリッサさんに向けながら答えたけど、彼女の表情が一瞬曇った気がした。




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