公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

思いのかたち(6)




「馬車の中で待っていてくれ。君が出かけるとなると、都市の防衛だけでなく求心力も含めて色々と問題があるからな」

 彼の――、レイルさんの言葉に私は首を傾げる。

「一応、君は小麦の女神と言う事になっているからな。魔法師としても強大な力を持っているのはスメラギでは理解しているはずだが、女神の方が受けがいいので、女神ということで噂を流している」
「――え?」

 魔法師として都市防衛の要になるのは良いけど、女神として扱われると困ってしまう。
 私の反応にレイルさんは「仕方ないだろう?」と、呟いてくる。
  
「ここに居る兵士は、君が魔法師として強い力を持っているのを知っている。だが、近隣の村はどうだ? よく考えてほしい。近隣の村は、魔法師という局地的な力よりも広い範囲での加護を期待している。それは、総督府スメラギからの圧政より開放してもらえるかもしれないという気持ちからだ」
「……そうですか」

 私は胸元に手を当てながら何度か深呼吸をしながら考える。
 小麦の女神というのは、決闘の時に使われただけの方便だと思っていたのに。
 現在、アルドーラ公国から小麦を輸入しているけど、それは転移系の魔法を使って移動しているに過ぎない。
 そして、妖精であるブラウニーが運ぶ物は転移時に基本的に物質が砕かれる方向になっている。
 小麦ならパンにするからまだいいけど、さすがに野菜に関しては粉々になるのは良くない。
 栽培なども考えていたけど、すぐに収穫できるわけでもないから何とか輸入が出来ないかと思っていたけど……。
 
「相談しなかったのは悪かったと思っている」
「仕方ありません。それより、小麦の女神として話を近隣の村に噂として流したのは、総督府スメラギを治めているイテル海爵のご息女エメラス・フォン・ルグニカとの決闘後ですか?」
「そうだ。その時に大勢の商人や村人が来ていたからな。丁度いいと思って話を流した」
「それで野菜などが市場に出回っていたのですか」
「そうなる」
「そうだったのですか。…………まずは為政者として町の人々の生活を守る事が仕事です。本当は相談して欲しかったところではありますが、どちらにしても同じことをしていたと思いますので……」
「君ならそう言ってくれると思っていた」

 私は小さく溜息をつくけど、レイルさんを責めるつもりはない。
 いまは町の運営がある程度は回るようになっているけれど、以前は本当に大変だったから。
 本人が望むと望まないにかかわらず町の代表になってしまった手前、私にはミトンに住む1万人の命が双肩にかかっているのだ。
 小麦の女神と崇められることで近隣の村々から食料物資の取引が行えるなら安いものだ。

「そういえば……」
「どうした?」

 気持ちを切り替えるために私は馬車へと視線を向ける。

「この馬車は、どこかで見た覚えがありますが……、何だか新しい気がしますけど? 以前の代官が利用していた物ではないですよね?」

 言葉を口にしながら馬車を見るけれど、ミトンの町では見たことがない。
 私がミトンの町に来て色々と行動している期間を含めても一ヵ月も経っていないのに、目の前の馬車は少し立派すぎるように見えてしまう。
 
「これは、アルドーラ公国のスペンサー王子が持ってきたものだ。町の代表者が幌馬車では体裁が悪いと君のために持ってきたものだ」
「そうだったのですか」

 彼も成長しているのねと私は心の中で呟きながら馬車を見る。
 細かな木細工が至るところに散りばめられていて、さすがは大国アルドーラ公国だと感心してしまう。
  
「――あれ? これは……」

 私は家紋が彫られている場所を見ながらレイルさんに語りかける。
 見たことがない国家紋が彫られている。
 海洋国家ルグニカ、リースノット王国、アルドーラ公国のどれとも赴きがまったく異なっていて見たことがない。

「それは国家紋ではない。さっきも言っただろう? スペンサー王子が持ってきたと。その馬車は大公の許可を得て作ったものらしい」

 ずいぶんと他人に配慮できるようになったと感心してしまう。
 最初に出会った時は、ずいぶんと自分勝手で身勝手な人だったけど、最近の彼は他人に気配りが出来る人間になっている。
 最初は、アルドーラ公国は色々と問題がありそうだと思っていた。
もしかしたらスペンサー王子が大公になれば、アルドーラ公国は良い国になるかも知れない。

「六芒星の中に女性の横顔が彫ってあるのですね」
「君にピッタリだろう?」
「どうでしょうか?」
「ちなみに、その文様はミトンの町の職人が作ったものだ。商工会議メンバーからのプレゼントと言ったところだな」
「あ、ありがとうございます」

 アルドーラ公国もミトンの町の人々が馬車を用意してくれたのは素直に嬉しい。
 だけど、王位簒奪レースが終われば私はこの町を去る。
 その時の事を考えると胸が苦しい。
 
 私は、動揺を悟られないように馬車に足場を使い馬車の中に乗り込む。
 持ってきたトランクは兵士の方が屋根の上に乗せてくれているようで、何から何まで本当に良くしてくれている。
 
 馬車に乗り込みソファーに座る。
 アクアリードさんやメリッサさんが来るまで時間はあると思う。
 出立の準備はレイルさんに任せておけば大丈夫なはず。

 しばらく瞼を閉じていると馬車の扉が開いた。




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