公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

思いのかたち(2)




「ユウティーシアさん?」

 無意識に私は体に力が入っていた。
 それを感じ取ったのが心配そうな表情でシェリーさんは私の名前を呼んでくる。
 だけど、私は彼女から視線を逸らしたまま口を開く。

「シェリーさん。これから話す内容については、皆さんに黙っておいて頂けますか?」
「え、ええ……」
「私がリースノット王国シュトロハイム公爵家の長女というのはご存知かと思います」
「そうね」

 私の言葉に彼女は頷いて見せる。
 この辺の情報ならある程度は情報網を持っている人なら集めることは容易。

「私が誕生した時には、グルガード国王陛下が来られてお父様と将来の私のことの話をしていました。それは100年ぶりの女児が誕生したからです。リースノット王国は、高い壁があるために長い間、外界と隔離されてきました。その為、魔力を持つ子供が極端に減っていたのです。それは魔力をステータスとする貴族も例外ではありませんでした。普通の貴族――、男爵家・騎士爵クラスは魔力が高い平民を娶って魔力の維持に努めたそうです。ただ……、伯爵家・侯爵家などはかなり葛藤があったようです。そして、それは……、王家の血筋を持つ公爵家や王家には特に問題視されていました。平民が魔力を持っていたとしても、それは初級魔法師程度でしたから……」
「あれかい? その時の貴族は初級魔法師程度の魔力すら持つ人間が少なかったというわけかい? そんな話を聞いたことがないね」
「ですよね……。その時のリースノット王国の国力は低かったですから。海洋国家ルグニカのスメラギ地方くらいの国力しかなかったと思います」
「それは……」

 呟いたままシェリーさんは考え事をして溜息をついた。
 
「それって15年前までの話よね?」
「はい」
「でも、おかしくない? 今のリースノット王国は世界でも有数の魔法大国よね? あの魔法帝国ジールですら手を出せないほどの国力を有しているのよね? それって、おかしくないかい? たった15年で戦争もせずに変われるものなのかい?」

 やはりというか彼女が疑問に思うことは至極全うなことである。
 何故なら国力というのは伸びしろがあったとしても他国との関係上、急激に上がるものではないから。
 とくに他国への投資という概念が無い世界では、短期間で国が成長するのが現実的に見て不可能だ。
 それをリースノット王国はやって見せたのだから、シェリーさんの戸惑いは当たり前だと思う。

「まず、一つ一つ説明をしていきたいと思います。私が生まれた当時、両親や国王陛下は魔力を測りました。その時に、私には魔力を感知できませんでした。落胆はしていましたが、王家の血筋を引く女児は久しかった為に、王家に嫁ぐことが決まりました」
「――ん?」

 ……と、怪訝な表情を私にシェリーさんは向けてきた。
  
「どうかしましたか?」
「えっと――、魔力を測りましたとか感知できませんでしたとか落胆していましたとか……、まるで生まれた当時の事を覚えているような素振りだったからね」
「はい。その時には意識はハッキリとしていたとは言いませんが思考は出来ていましたので……」
「それって……、赤ん坊の頃の記憶があるということかい?」
「正確に言うなら赤ん坊の頃の記憶もあると言ったところでしょうか……」
「えっ? それって……、どういうことなの?」
「私は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムは、もともとこの世界の人間ではないのです」
「この世界の人間ではない?」

 私は、「はい」と頷く。
 すでに私の視線は、シェリーさんの胸元に向けられていて彼女の機微を感じ取ることはできない。
 私の頭を撫でていたシェリーさんの手も止まっている。
 きっと私のことを得体の知れない何かだと思っているに違いない。
 少なくとも私ならそう思う。
 理解が出来ない人間が――、生物が居るのなら……、それに畏怖して恐怖するのは生物としては当たり前のことだから。
 だから、私はさらに言葉を紡ぐことにする。

「はい。私には前世の記憶があり、この世界よりも遥かに文明の進んだ世界で暮らしていました。そして、その記憶を頼りにリースノット王国を豊かにしていったのです。そして、それと同時に私には強大な魔力が存在していたことが判明しました」
「――でも、さっき計測したときに魔力は感知できなかったって……」
「強大すぎて測ることが出来なかっただけです。私に強大な魔力が存在すると知った時にお父様や国王陛下は大変喜びました」
「そうだね。100年ぶりの王家直系の血を引く女児で、魔力衰退が著しいリースノット王国の中で強大な魔力を持っているのだからね」
「はい」

 私は頷く。
 そして――。

「そして、それだけではなかったのです。私には特殊な力を持つ魔力を持つ石を作る力があったのです。そして、それはアルドーラ公国がミトンの町と貿易協定を結んでくれた物でもあったのです」





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