公爵令嬢は結婚したくない!
波乱万丈の王位簒奪レース(7)
海洋国家ルグニカのスメラギ地方。
その首都とも言える都市はスメラギであり、スメラギを治める総督府が置かれている。
――そして、私が居るミトンの町は、スメラギ地方の一都市に過ぎない。
「以前よりも人通りが多い?」
私は、通りを見ながら思わず一人ごとのように呟いていた。
「ああ、ユウティーシア。お前が戻ってきたと言うことで、スメラギの圧制から開放してもらえることに期待した村々の人間が集まってきているんだ」
「えっと……、どうしてレイルさんが此処に?」
私の一人ごとに答えてきた彼に言葉をかけた。
「――久しぶりの町なのだろう? ずっと君は、外を見て回っていなかったからな。それに……、町の様子もよく知らないだろうからな」
「つまり、ナビゲータではなくて、ガイド? ではなくて案内をしてくださると言うことですか?」
「ああ、そうなるな」
「そうですか……」
内心、溜息をつきながら彼の言葉に頷く。
一人の方が色々と見て回ることは出来るけど、相手の厚意を無碍にするわけにもいかない。
「分かりました。お願いできますか?」
「ああ、それと商工会議のメンバーについては昼までに集まる予定になっている」
「そうですか。それでしたら、早めに視察を終えた方が良さそうですね」
「まずは、倉庫街から確認したほうがいいな」
「そうですね」
彼の言葉に頷きながら後ろをついていく。
実際のところ、私は倉庫のある場所を知らなかったりする。
末端の取引や、実際の業務にセッションについて餅は餅屋の精神で商工会議に所属している商人達に任せていたから。
それに対応も殆どレイルさん任せで、私はアイデアを出したくらい。
「……これって、もしかして……」
総督府スメラギからの影響が無ければ、私とかいらないのでは? と、一瞬思ってしまう。
――小麦を保管している倉庫が存在する倉庫街。
そこは、私が宿舎として使っている建物から徒歩で10分も離れていない場所にあった。
「かなり……賑わっていますね」
「そうだな。話によると大量のブラウニーが姿を現して今まで停滞していたアルドーラ公国からの食料物資のやり取りが始まったらしいからな」
「……そうですか」
私は、レイルさんの言葉に言葉を返すけど、それこそが原因不明の病を前兆だと知っていることから良い感情は浮かんでこない。
小麦などの穀物の物資搬入を妖精達は一生懸命がんばっている。
「そういえば、塩の生産の方はどうなっていますか?」
アルドーラ公国との取引で使うことになる主力製品。
それは塩が取れないアルドーラ公国には高く取引が出来るもので、ミトンの町で私に頼らずに生計を立てられる物。
「君が提案した入浜式塩田のことか?」
「はい」
「視察に行ってみるか?」
「お願いします」
ミトンの町の南側。
海に面している場所に、倉庫街が存在していることから、すぐに浜へ出ることが出来た。
しばらく歩いていると、レイルさんに提案した塩を作るために機構が見えてくる。
それは塩の干満差を利用して塩田に海水を引き込む製法で、日本では室町幕府の時代から行われていた400年近く続く塩の製法技術。
「工事はもう終わっているようですね」
「そうだな。近隣の村々からも出稼ぎで来ていた人材も多く登用できたからな。思ったよりも早く工事が終わったところだ」
「そうでしたか……」
彼の言葉に私は頷きつつ、アルドーラ公国との取引は塩を主力にして行えることに安堵する。
「おお、これはユウティーシア殿ではないか!」
「――え? こ、これは……」
私は、慌ててスカートを摘みながら頭を下げる。
「どうして、このような場所に、フィンデル大公様が居られるのでしょうか?」
「別に不思議なこともなかろう? アルドーラ公国もミトンの町の経営権を持っておるのだ。それに我が公国にとって塩を手に入れることは国策でもあるからな」
「そうでしたか……」
たしかに言われて見れば、株式と同じ形式を持ったミトンの商工会議の一員でもあるアルドーラ公国が、塩田開発に対して顔を出さないほうがおかしい。
「うむ。それに、ここ2週間ほど停滞気味であった小麦の運搬に関しても改善されてきたようであるからな。魔法師にも余裕が出来たことから、スペンサーと共に、視察にきたのだよ」
「それにしては……」
私は、フィンデル大公の周辺に視線を向けながらスペンサー殿下が居ないことに首を傾げる。
「ああ。息子は、君に会いにいくと向かったようであったが、すれ違いになってしまったようであるな」
「そうでしたか……」
「――ところで、ミトンの町で原因不明の病が蔓延していると話しには聞いていたが、そのような兆しは見えないが、詳しく話しを聞かせてもらえるだろうか?」
「わかりました。それに関しては、商工会議を昼からを予定しておりますので、その場で説明させて頂きたいと思います」
私は、アルドーラ公国の大公様に頭を下げながら言葉を紡いだ。
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