公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

波乱万丈の王位簒奪レース(2)




「――妖精が消えた?」
「ああ、君が町を出てからしばらくすると姿を消してしまったんだ」
「それでは――、アルドーラ公国との流通は?」

 私が、ミトンの町を出てから戻ってくるまで2週間近く経過していたはずで――、少なくとも、その期間は流通が止まっていたことになる。
 現在、ミトンの町は支配をしていたスメラギの総督府と敵対関係をとっていて、周辺の町などから食料の買い付けが出来ない。
 1万人近いミトンの町で、2週間も食料品が入ってこないことは、危機的状況にあると言わざるを得ない、思ったよりもレイルさんは焦っているようには見えないのが気になる。

「妖精を使った物流は出来ていないが、君が残していった白色魔宝石を多目に渡して対応してもらっている。あれを使えば魔力の回復が容易く高位の魔法師を作ることが出来るようだからな……」
「そうですか……、よかったです」
「――すまない。君との連絡が取れなかったので、こちらの裁量で対応させてもらった」

 レイルさんが私に頭を下げてくる。
 私は、頭を振りながら「いえ、2週間も物流が停止しておりましたら、大変なことになっていました。助かりました」と、言葉を紡ぐ。

「それにしても……、白色魔宝石の仕様を知っていたのですか? よく代案を思いつきましたね」

 ――そう。

 白色魔宝石を使うことで、魔法師の最大魔法力を引き上げることは知っていた。
 それはリースノット王国で、すでに実証されていたことであり低位の魔法師であっても、最大魔法力の引き上げが可能なら、どこまでも魔力を引き上げることが、その力が白色魔宝石には在る。
 どうして、そのような力が白色魔宝石にあるのか分からない。
 ただ、それをレイルさんが知っていて代案を出せるとは私には思えなかった。

「――いや、代案というか案を出してきたのは、アルドーラ公国第一王位継承権を手に入れたスペンサー殿下だ」
「……スペンサー……さんがですか?」

 さすがに王族の名前を敬称無しで言うのは不味いと思い、咄嗟に「さん」付けを行った。
 それでも「様」付けをしないのは、とてもそんな心境ではないから。

 それと同時に、アルドーラ公国のスペンサーなら私の力を何度も見てきたはずだし、白色魔宝石の特異性についても知っていてはおかしくはない。
 それにしても……、転移魔法が使える魔法師が量産されてしまったのは、予想外。
 そもそも転移系の魔法を私は使うことが出来ない。
 アイテムボックスは、時空に干渉する魔法。
 転移系の魔法も時空に干渉する同系統の魔法であり、転移系の魔法が使える魔法師が増えると言うことは、アイテムボックスを使うことが出来る魔法師が増えることでもある。
 アイテムボックスが使えるということは、貿易をする上で関税を簡単に潜り抜けることも出来るわけで経済戦争をしていく上で、途方もないアドバンテージを手に入れることにも繋がる。

「何か問題でもあったのか?」
「――いえ」

 レイルさんの言葉に私は頭を左右に振る。
 彼に何かを言っても仕方ない。
 そもそもレイルさんは、元は町を守る兵士であり魔法について殆ど知らない。
 そんな彼に政治や国防を絡めた魔法に関する問題を考えてなど言えないし、そもそも妖精の特性を私がきちんと把握していたのなら、最初から問題など起きなかった。

「それよりも、アルドーラ公国の魔法師が食料などの物資を運んできてくださっているのですよね?」
「ああ、そうだが……」
「そうですか……、それなら運んできている魔法師の方と、一度お会いしたいので伝えて頂けますか?」
「構わないが――、君が直接、倉庫街に行って話をしたほうがいいんじゃないか?」

 彼の言葉に私は、何とも言えない表情をしたと思う。
 何故なら、私を見ていた彼が眉を顰めたから――。

「いえ、ちょっと私は……」
「ユウティーシア、君が帰ってきたと知れば商工会議の人間も、何より孤児院の子供達も喜ぶはずだ」
「――ッ!」
 
 私は、無意識の内に後ずさりしていた。
 何故なら、私とレイルさんの間に妖精であるブラウニーが一匹、その姿を現したから。

「ご主人たま!」

 目の前で浮かんでいる無邪気な表情をした妖精は、私に近づいてくると「やっと、顕現できたでち!」と、私に語りかけてきた。





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