公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

波乱万丈の王位簒奪レース(1)




 私は自分自身を鼓舞する。
 まずは、ミトンの町へ戻ってからレイルさんと相談しないといけない。
 これからの町の経営と防衛問題を含めて……。

「ユウティーシア様!」

 市場前で考え込んでいるとメリッサの声が耳に入ってきた。
 声のした方を振り向く。
 すると私が、エルノの町に来た時に乗ってきた幌馬車の従者席に座ってメリッサさんが手を振っていた。

 私の前で停車した幌馬車に乗っていたメリッサさんに私は、「どうして、ここに……」と問い掛けてしまう。
 もう、すでに依頼は終わったはずなのに、どうして彼女がここにいるのか……。

「ギルドマスターから、依頼を出したのは冒険者ギルドなので帰りもきちんとするようにと」
「そうですか……。ところでアクアリードさんは?」
「こちらにいます!」

 御者席から、荷馬車に繋がる幌馬車の中から顔を出してきたアクアリードさんは、私の問いかけに顔を出して答えてきた。

「アクアリードさんも、グランカスさんに頼まれて来られたのですか?」
「そうですね、それに……」

 幌馬車の中から上半身を出してきたアクアリードさんは、白と緑に装飾された弓を見せてくる。

「私やメリッサも、ダンジョンクリアの報酬を、ユウティーシア様から貰っていますから! ミトンの町まで案内するのは当然です」
「……」

 私は小さく溜息をつく。
 二人の顔を見ただけで、落ち込んでいた感情が何時の間にか上向きになっていたのを気がつく。

「ありがとうございます。それでは、ミトンの町まで道中をお願いできますか?」

 私の言葉に二人は快く引き受けてくれた。
 


 一週間近くの旅路となるために市場で物資を購入したあと、私達は総督府エルノが存在する町を後にした。
 町を出立してから一日目の夜。
 焚き火を囲って野営をしていると、アクアリードさんが「馬に水をあげてくるわね」と言って立ち上がると馬のほうへ向かってしまう。

「ユウティーシア様、どうかなされたのですか?」
「どうかとは?」
「いえ、カベル海将と話をして病の原因は突き止めたのですよね?」
「ええ……、そうですね」

 詳しい話を彼女達に説明することは出来ない。
 それは、機密事項という意味合いではなく、もし私が原因で病が発生しているということが本当だった場合、周りからどういう目で見られるのかが怖かったから。
 なんと脆い。
 自分の立ち居地が揺らいだだけで、自分が自信を持って取り組んできたことが、砂の城郭のように崩れていくようで、とても……恐ろしい。

「顔が真っ青ですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
 
 メリッサさんの言葉に即答する。

 まだ、確定したわけではない。
 カベル海将の話は現代医学のように実験結果から求められた精度の高いものではない。だから、たまたま私が居たときに病が発生して、それをカベル海将が勘違いして言ってきた可能性だって……。
 そう、きっと……。



 総督府エルノを出立してから一週間後に、ミトンの町に私を乗せた幌馬車は到着した。

「戻ってきたか!」

 ミトンの町――。
 門のところで待っていてくれたのは、レイルさんであった。

「はい! 戻って参りました」

 私は、幌馬車から降りながらレイルさんへ言葉を返した。
 ただ、地面についた時に一瞬、体がよろけてしまう。
 
「――お、おい!」

 倒れかけたところで、彼が――レイルさんが私の体を支えてくれた。

「レイル殿。ユウティーシア様は、ずいぶんと疲れていらっしゃいますので、すぐに休ませたほうがよろしいかと思います」
「そうか……、大丈夫なのか?」

 身長差もあり、私の頭の上からレイルさんが問い掛けてくる。

「はい、少し食欲がないだけで……」
「今日は、いくつか報告があるが数日休んでからが良いかも知れないな」
「申し訳ありません」

 ここ一週間、殆ど食事が喉を通らず睡眠も満足に取れなかった。
 こんなに、私自身、精神的に弱かったなんて――。

「いい、原因不明の病気だった人間は現在では全員回復しているからな。商工会議の人間も君が戻ってきたことを喜ぶはずだ」
「――え? それって、どういう意味ですか?」
「君が居なくなってから、妖精が消えてしまったんだ」

 レイルさんの言葉に。
 私が居なくなったと同時に妖精が消えたという事実に……、私は唖然とすることしか出来なかった。





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