公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

否定されし存在(3)

 現在、総督府が存在する衛星都市エルノの近郊に存在していた迷宮を攻略した私達は、帆馬車に乗って衛星都市エルノに向けて草原のあぜ道を移動していた。

 帆馬車の御者席に座っているのは、メリッサさん。
 そして帆馬車の後部に座っているのは、私とアクアリードさんと、そのほか大勢。

 アクアリードさんが後部の荷置き場ともなる場所にいるのは、落下の罠に引っかかったのもあったけど、落下しているところを助けた際に急制動掛けたのが大きい。
何せ、落下している彼女を助けるときに、魔法で落下速度を無理矢理落としたものだから、身体中の骨が色々とあったりしたのだ。

最初はアドレナリンが分泌されていたからなのか、痛みが分からなかったようだけど、帆馬車の移動は、とても揺れる。
揺れれば具合が悪いところも出てくるのだ。

 出発してから10分くらいで、アクアリードさんの顔色は、真っ青になっていて、どう見ても異常で、急いで回復魔法をかけて事なきを得たのだ。
 問題は……。

 私の回復魔法は、あくまでも地球の医学・科学を世襲しているものであって、この世界の人間の身体に適用しているのかと言われれば、分からないとしか言えない。

 まぁ、私の体に回復魔法をかけても問題なかったから、きっと大丈夫なはず。
 一応、こう見えてもよく肉体の蘇生とか自分の身体で小さいころからしているし……。

「アクアリードさん、身体の調子はどうですか?」
「身体の調子ですか?」

 そろそろ回復魔法を彼女に掛けてから一時間は経つ。
 何か異常があれば、出ている頃合のはず。
 私が居ない時に何か問題が起きたら困るし対応も出来ない。
 それに一緒に旅をしている知り合いでもあるし、中途半端な対応はしたくない。

「大丈夫だと……思います。どちらかと言えば……」

 アクアリードさんは、衛星都市エルノで購入したリンゴを手に取ると、そのまま握りつぶしてしまった。

「――え!?」
「なんだか、すごく身体が軽くて力が湧き出てくるみたいです!」
「そ、そうですか……」
「もしかしたら宝石が埋められていた弓のおかげかも知れませんね! 伝説の武器とかは、持ち主に力を与えるとか聞きますし……」

 少し興奮した様子で私に話かけてきたアクアリードさんの言葉を聞きながら、私は「そうですね、はははっ」としか返せない。

「そういえば、彼らですけど……」

 アクアリードさんの視線は、床の上に直接寝かされている男性たちに向けられていた。
 私は溜息をつきながら彼らの近くに座る。
 そして、脈を確認していくけど医者でもない私に判断がつくわけもない。
 辛うじて確認できるのは生きているかどうかだけ……。
 ただ、カベル海将の顔色は、とても疲れているように見える。

「かなり衰弱しているのかな……」

 私は、少し心配になってひとり呟く。
 カーネル達に迷宮内に拉致、監禁されてから、まともな食事を取っていない可能性もある。
 しかも、横にしたら、すぐに寝てしまったし――。
 これは迷宮内が過酷であったという証拠かもしれない。
 許せない!
 50歳近い白髪が混じった初老の男性を、こんな目に合わせるなんて!

「ユウティーシア様が、水の魔法を迷宮に流し込まなければ……」
「うっ!?」

 私が、心の中で自分を擁護しながら現実逃避しているとアクアリードさんが突っ込みを入れてきた。
 言われなくても分かっているのです。
 でも、もっと! こう、もっと! オブラートに包んでほしい。

「で、でも! あの時は仕方なかったというか! 迷宮が埋もれていましたから!」
「ユウティーシア様が魔法で魔物を倒さなければ――」
「だから! それは、最初に! 迷宮に入る前に謝りましたよね? ねえ、謝りましたよね?」
「謝れば許してくれるというのは些か……」
「あう……」

 何も言い返せない!
 でも! でも! 一つだけ言っておかないと!

「話は変わりますけど、水の魔法を使ったというのは皆さん、特にカベル海将には内緒にしておいてください。一応、恩を売っておきたいのです」

 私のお願いに、メリッサさんとアクアリードさんも大きな溜息をついていた。

「お願いしますね! きちんと報償は渡しましたからね!」
「「えー……」」

 二人して、驚き声を上げてきた。

「ほら、きちんと武器を分配しましたよね? あれが口止め料です!」

 提案した内容に二人は、「あー、なるほど」と言うとそれぞれ頷いてきた。
 これで、一応根回しは大丈夫そうですね。

 私は、一通りことが済んだので、帆馬車内の帆に身体を預けて目を閉じた。
 さてと、あとは衛星都市エルノに到着したら、カベル海将にミトンの町で起きている疫病について確認を取るだけですね。

 



コメント

  • ノベルバユーザー282941

    ここ最近のユウティーシアさん嫌い。

    0
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