公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

迷宮区への足がかり(6)

 キッカさんの監視のもと、転がっているテーブルを定位置に戻す。
 もちろん、身体強化魔法を使ったままなのでテーブルを両手で担ぎ上げたまま移動する。
 転がして床に傷をつけて、いちゃもんを付けられるのも嫌だから。
 私ならテーブルを設置する際に、床とテーブルの足が擦られて傷がついたら小言言うし……。

「こんなものですね!」

 アクアリードさんも身体強化魔法は使えるけど、私ほどではない。
 つまり、全部! 一人で再設置したということになる。
 いやー、本当にがんばりました。
 台風が間近で出現した後のように、酒場の中は荒れ果てていて、それを一人で片付けたとなると私は、かなり好印象に見られるかもしれないです。

「本当に――」
「ああ、俺も思ってはいたが……」

 二人が私を見ながら何か会話をしている。
 きっと、生真面目な日本人としての性格が反映された事細かな部分! 細部に至るまで酒場の中に散らばった椅子やテーブルを片付けた私を見て賞賛しているのでしょう!

「大人の男が3人は居ないと持ち運び出来ないテーブルをあんなに軽々と……。本当に、こいつが総督府や酒場を破壊した張本人だったのか」
「それだけ美人なのに……御淑やかにしていれば……」

 何故か知らないけど、二人して私を見ながら溜息を漏らしていた。
 おかしいです!
 一生懸命、仕事をしたのに!

「今、戻りました」

 私が心の中で愚痴を零していると一抱えある木箱を両手に持ったメリッサさんが入り口の扉を開けて入ってきた。
 そして私とアクアリードさんを見てから、腕を組んでいるキッカさんとギルドマスターを見て一度、頷くと私のほうへ近づいてきた。

「ユウティーシア様、どうやら、キッカさんと冒険者ギルドマスターには――」
「はい、言葉巧みに私は正当防衛だから無罪だと主張したのですが、グランカスさんに壊したのは私だからと……、私も被害者なのに……」

 私はメリッサさんに事のあらましを正しく伝えると、メリッサさんは、「被害者? えーっと、それは、どうなのでしょうか?」と、私も悪いような言い方をしてきた。

私は、誤解を解こうと思っただけなのに、酷い勘違いである。
ここは捕獲した奴隷商人をボコボコに殴って気分を解消するしかないです。

「あ、ユウティーシア様。これを――」

 重そうに両手で抱えていた木箱をメリッサさんが差し出してくる。

「結構、重いですね」
「はい、300人分の兵士から回収した硬貨が入っていますので――」
「メリッサさん……そういうグレーな発言は、小さな声でお願いします。何かあったからでは困るのですよ?」
「すいません」
「まったく気をつけてくださいね。これは回収ではなく、私宛に兵士の方が寄付してくれたお金です! 何度言えばいいのか……」
「何度も言われていません」

 もう、ああ言えば、こう言うのですから。

「なぁ……」
「なんなのですか?」

 振り返るとグランカスさんが、近づいてきていて語りかけてきた。

「その箱に入っている硬貨だが――」
「なんなのですか? 欲しいのですか? あげませんよ?」
「そうじゃなくて――それ兵士から徴収したものだよな?」
「そうですが、それが何か?」

 グランカスさんは、私の言葉に頬を何度か掻く素振りを見せたあと――。

「兵士達の一部は、カール・ド・ルグニカが町から逃げ出したときに一緒に着いていったが、大半は町に残ったままだ」
「はぁ? それが何か?」
「いや、だから――家族が居るやつらだっているだろう? お金が無いと暮らしていけない奴らもいることだし……」

 グランカスさんが、何を言いたいのか、ようやく理解できた。
 つまり、お金を奪われた人間が生活に困窮しているからお金を返してほしいと言っているのだ。
 ただ、問題は女性を襲った人間に直接交渉できないということ。
 だって、今まで一度もそんな話はこなかったし……まぁ、来たとしても! そんなお願いなんて却下ですよ! 却下!

「何を言っているのですか? そもそも、善良な一市民である私やアクアリードさんやメリッサさんを奴隷にして乱暴狼藉を働こうとした社会のゴミを! どうして、私が助けないといけないのですか? 理由が分かりません!」
「そ、そうか……。たしかに、そういう事情があるなら仕方ないな……」
「そうでしょう! そうでしょう!」

 私は、箱をカウンターの上に載せる。

「キッカさん、酒場の修理費を支払います」

 私とグランカスさんとの会話を聞いていた彼女は、若干、表情を引き攣らせたまま「――え、ええ……」と答えてきた。




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