公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

迷宮区への足がかり(4)

 私は、酒場を見渡して大きく溜息をつく。
 建物の中に居たのは、全部で5人。
 一人はヘイルダムという人と、もう一人は知らない随行していた男性。
 そして、メリッサさんにアクアリードさんと私。
 いつの間にか、カウンターに座っていた女性は姿を消していた。

 まぁそれはいいとして――。
 一応、まがりなりにも酒場!
 朝早かったのがよかった。
 利用客が私達以外にはいなかったのが救いだと言える。

「これなら、お金さえ掴ませれば隠蔽できそうですね……」

 思わず呟いた言葉に、メリッサさんが呆れた顔で「ユウティーシア様……」と呟いていたのが聞こえてきたけど、とりあえず聞こえてないふりをしておく。
 私は店の壁が壊されたことに驚きの表情を浮かべているアクアリードさんに語りかけると「はい!?」と、アクアリードさんが表情を引き攣らせて答えてくる。

「さっきの女性の方は?」
「――キ、キッカさんですか? ギルドマスターと連絡を取りに行くと言って裏手から出ていきました」
「そ、そうですか……。えっと、お店のオーナーというか経営者はキッカさんで良いのでしょうか?」
「はい、キッカさんですが、いくらなんでも……これは……」

 アクアリードさんは、私が破壊した入り口のほうを見ながら溜息をついている。

「わかっています。ですからお金で解決しようかと」
「ユウティーシア様……」
「そんな呆れた顔しなくても大丈夫ですから! 札束で頬を叩くような真似はしませんから! きちんと説明して謝罪もしますから! ですからミトンの町にも迷惑がかかる事にはならないはずです。たぶん……きっと――」
「はぁ……」

 私の事情説明に、アクアリードさんが溜息をつくと、今まで尊敬の眼差しで見てきていた瞳を、こいつダメな子だな! という瞳にして見てきた。



 二人には、テーブルが壁を破壊したときの衝撃と音で気絶した男性二人を酒場の中央に移動してもらう。
 力の無い女性だから、床の上を引き摺っていくことになるけど仕方ない。

「そういえば、メリッサさん」
「何でしょうか?」
「縄とかあるようでしたら男性2人を縛って身動き取れなくしていただけますか?」
「拷問でもするのですか?」
「しませんから! どういう目で私を見ているんですか!」

 テーブルを投げて、酒場を壊したのは自分の力加減を焦ってミスった結果であって、何も言い訳はできないけど、拷問するの? とストレートに聞かれると結構、ショックだったりする。

「えっと……気に食わない問題を力任せに薙ぎ倒していくところですか? それとも、金品を強奪することですか? それとも、無駄な魔法を使って古代の遺物を吹き飛ばしたりすることですか?」
「……ハハハハハッ」

 私は、前髪を弄りながら笑って誤魔化す。
 何も言い返すことができない!
 だって……。
 全部、不可抗力だけど、事実には変わりないから。
 はぁ……、いろいろと生きているって大変ですよね――。

「笑ってもダメです。それよりも、どうするんですか? これ――」

 メリッサさんが酒場の中を見渡して、私に問いかけてくる。

「どうすると言われても、アクアリードさんに説明したとおりに、お金を渡して返済するしかないですね」
「それしかないですね」

 さすがに、メリッサさんも私の言葉に同意してくる。
 お金は万能の支払いツールなのだ。

「メリッサさん、おばかな子じゃなくてユウティーシアさん」
「どうかしたのか?」

 アクアリードさんの言葉にメリッサさんは振り返るけど、今、私……すごく酷い言われ方したような気がするんですけど……気のせいだよね?

「どうかしましたか?」
「一応、厨房に縄がありましたので――」

 アクアリードさんは、縄を私とメリッサさんに見せてくる。

「私が縛っておきますので、二人は破壊してしまった壁にテーブルでも立てかけてください。それで中を見られないようにしましょう」

 私の指示に二人はしぶしぶ頷くと、丸いテーブルを入り口のほうへ転がしていく。
 外から見られないように崩れた壁のところへテーブルを立てかけると二人は、私のほうへ戻ってくる。

「それは一体……」
「はぁー……、それは何て縛り方ですか?」

 メリッサさんの言葉の後に、呆れた声色でアクアリードさんが問いかけてくる。

「ふふっ、これは亀甲縛りというやつです!」

 私が自信満々に腰に手を当てて見よう見真似で行った芸術的なまでの縛りを自慢すると、二人とも同時に大きな溜息をついていた。




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