公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

迷宮区への足がかり(2)

 衛星都市エルノの町並みを見ながら歩いていると、昨日といくつが相違があることに気がつく。
 昨日までは、町全体が緊張感に包まれていたような感じがあった。
 市場も、大通りも人通りが少なく、住民は息を殺しているような――。

「ユウティーシア様、ずいぶんと町の雰囲気が変わりましたね」
「そうですね……」

 私は、昨日とは打って変わって人通りが多い道を見ながらアクアリードさんに言葉を返す。
 まるで、昨日までの寂れていた印象を受けた町が、嘘のようで。

「これもすべて、カーネル・ド・ルグニカの圧制から開放された影響でしょう!」

 前を護衛するように歩いていたメリッサさんが振り向いて、私に話しかけてきた。
 そんな彼女の言葉を肯定するかのように、アクアリードさんは頷いてはいるけど―ー。

「はぁー……」

 私はため息をつくことしかできない。
 だって、今の二人の会話――、日本風に言えば、悪いことをしていた悪代官を私が倒して追い出したように聞こえるから。
 時代劇とかだと、悪代官を「成敗!」と、言って斬り殺して、そのあと皆が圧制から開放されてハッピーエンドで終劇を迎える。

 ――だけど!

 現実は、その後にも話は続くわけで……。

「また、ミトンと同じ状況になったらどうしましょう……」

 再度、ため息をつく。
 ミトンだけでも、すでに謎の病や食糧問題、アルドーラ公国との交易対応、さらにはスメラギ総督府と諸々の問題が積み重なっているのだ。
 こんな状況でさらに、総督府が存在する衛星都市エルノまで、治めることになったら正直言って手一杯というか無理、マジで死ぬ! 過労死する! 労災は!? 労働組合は? というレベルになってしまう。

「大丈夫です。カベル・ド・ルグニカ海将は人格者で知られていますから」
「そうなのですか?」
「はい、奴隷を推進している海洋国家ルグニカの6つ存在する総督府の中で唯一、反対していた方ですから」
「なるほど――、それは朗報ですね」

 私は歩きながら、アクアリードさんに言葉を返す。
 市場が近づいてくるたびに、少しずつ何かを焼く雑多な匂いを感じ取れるようになってきた。
 昨日までは、殆どの店が閉まっていたにも関わらず、今日は路肩の商店が殆ど開いている。
 そして、もうひとつ気になったことがある。
 だれもが私たちを遠巻きに見ているということ。
 その表情から見て取れるのは、好奇心と恐怖を混ぜたようなモノ。

「……町の方々に、何故か避けられてるような気がするのですけど……」
「はい、どうやらですね。神代文明時代の遺産である何をしても壊れることの無い総督府の建物を盛大に破壊したことで、神が降臨して破壊したという話になっているみたいで――」
「なるほど……」

 神が降臨ですか……。
 まぁ、一部ではあるけど中世よりも劣った制度すらあるアガルタの世界において、自分たちが理解できないというのは、精霊とか悪魔とか神のせいにしたりすることは、地球でも良くあった事だから仕方ない。

「それでも神が降臨とは、また大げさですね」
「「え!?」」

 二人は、呆然とした表情で私を見てくる。
 まったく二人とも神様という存在を信じているらしい。

 だが! 私は生憎、神という存在を信じていない。
 第一、神様なんていたら、私がこんなひどい扱いじゃなくて、大勢の人が奴隷になったり苦しんだりするわけがないから。

 そう、神様がいたら性転換なんてアホなことになるわけがないのだ!

「えーっと、一応ですね。ユウティーシア様が小麦の女神様ということになっていまして――」
「ええー!?」

 私は横を歩いていたアクアリードさんの言葉に、驚いてしまい大声で答えてしまっていた。

「ですから……ユウティーシア様はミトンの町でも小麦の女神様で、そして下僕として数万の妖精を手足のように扱うと言われてましたので――」
「……ま、まさか!?」

 私は、前を歩いているメリッサさんの方を見る。

「はい、どうやらエメラス・ド・ルグニカを倒したのを見ていた商人やエルノの住人が戻ってきて、ユウティーシア様の服装や瞳・髪の色から本人だと特定して、その情報が一気に広まってしまったようです。決して! 壊すことができない建造物を破壊したことで、本物の女神だということが――」
「――え? つまり、昨日、いろいろあって……いろいろやった結果……私が小麦の女神ってことで現世に降臨したということになって――?」

 アクアリードさんが、私の言葉を聞いたあと、自信満々に「はい」と、頷きながら断定してきた。

「ああ……」

 マジで、この世界神様いないじゃん!
 本当、どうしよう。
 カベル海将を見つけて、何とかしないと、これから本当に大変になりそ――。

「あっ、ユウティーシアさま」
「えっと、まだ何かあるんですか? もう、これ以上は、無理ですよ?」
「違います。居酒屋ぼったくりに到着いたしました」
「居酒屋ぼったくり?」

 また変なネーミングセンスだなと目の前の建物を見る。
 うん、普通の木材だけで作られていて、まるでログハウスのよう。
 レンガ作りの建物が多い中、その存在は、とても浮いてしまっている。
 まるで空気が読めてない。看板の文字も酷い物。

 看板には「居酒屋ぼったくり」と、描かれていた。



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