公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

本当にここ、異世界だよね?

 エルノの総督府から出る。
 囲まれている壁から出ると通りには大勢の人だかりが出来ていた。

「ユウティーシア様!」

 そんな人だかりの中から見知った人が走って近づいてきた。

「アクアリードさん? どうして、こんなところに……」
「アクアが心配だと言ったからだよ」

 私の疑問に答えてきたのはメリッサさんで、よく見れば二人とも息が上がっていた。

「えっと……」

 私は、二人にどうしても尋ねたいことがあった。

「べ、べつに! アンタの事を私も心配していたとか、そういんじゃないから! 勘違いしないで!」
「そうじゃなくて……二人に預けていた木の箱に入っていたお金は?」
「そっち(なの)?」

 二人が、大きな声で驚いてきたけど、お金はとっても大事なのに、この二人は何をしているのか……。

「きちんと宿屋の部屋に置いてきたから!」

 メリッサさんの言葉を聞きながら、私は首を傾げてから「そうなの?」と、アクアリードさんに話しかけた。
 アクアリードさんは、首肯すると小さく溜息をつくと「ユウティーシアさんは、人の好意に鈍感ですよね?」と語りかけてきた。
 まったく失礼な。
 私ほど、人の感情に敏感な人はいないですよ?
 とくに悪意に対しては敏感です。
 こう見えても元は日本人ですから!
 空気を読むのは得意ですからね。

「さて、もう夕方です。これからの方針については宿屋で話し合いをするとしましょう」
「その宿屋の手配。我々に任せてもらえないか?」

 声がした方へ視線を向けると、大勢の集まってきた民衆の中から一人の男性が姿を現した。
 立派な体格。
 一目で、戦いを生業としているのが分かる。

「私の名前はグランカスと言う。エルノ地方の冒険者ギルドマスターをしていた者だ。君に話したいことがある」
「私に話したいことですか?」
「うむ。ここでは人の目もある。一度、場所を変えたいのだが?」
「――私には、とくに冒険者ギルドと関わる用事とか無いのでご遠慮させてください」
「……アクア君、メリッサ君からも説得してもらえると助かるのだが?」
「部下の方にお願いするのは上に立つ者として如何なモノかと存じますが?」
「部下を上手く使うもの上司の手腕だろう?」
「まぁ、そうですが……」

 私は、溜息をつく。
 正直、あまりメンドクサイ事には関わりたくないし。
 そうでなくとも、私は指名手配されているから。

「君が探しているカベル・ド・ルグニカ海将の情報も提供しよう」
「…………何を言っているのか分かりませんが?」
「ふむ……、君はかなり疑い深いようだな。どうしても私とコンタクトを摂りたい場合には中央市場近くの飯屋の店主キッカに話しを通してくれ」

 グランカスの言葉に、私は頷く。
 私のことを観察していた男は、踵を返すと群集の中に姿を消した。

「ユウティーシア様、どうしてギルドマスターの話を無碍にされたのですか?」
「無碍にしたというか……、あまりにも出来すぎかなと思って……」

 総督府が落ちたと同時に、ギルドマスターが私に接触してくるなんて明らかに、こちらの行動を把握していたとしか思えない。
 おそらく――。

「二人とも、グランカスとは?」

 怪訝そうな表情をしたアクアリードさんとメリッサさんの二人。
 私に疑われていると思ったからこそ、顔色を変えたのだろう。
 それでも、私の情報を持っているのは彼女ら二人だけで――。

「ギルドマスターとは、今あったばかりです」
「はい、私も――」

 メリッサさんの後を追うようにアクアリードさんも答えてきた。
 二人の様子から嘘をついてるようには見えない。
 まぁ、実際のところ日本人として暮らしてきた感覚からだから、その辺はかなり適当だけど。
 人生経験が60年近くある私から見れば、ある程度は分かる。

「さてと、宿屋へ案内してもらえますか?」
「はい、案内しますね」

 アクアリードさんが答えてきたあと、集まった人の波を掻き分けて通りを歩いていく。
 しばらく歩くと、アクアリードさんが「ここです」と振り返っては語りかけてきた。

「ここ?」

 目の前に見える建物に私は何とも言えない気持ちになった。
 だって、目の前に見えるのは5階立ての総督府よりも立派そうな建物。
 しかも、お城を模した形をしているけど。
 実際のお城よりも遥かにしょぼいというか何と言うか……ラブホテルであった。

「あの……本当にここなの?」

 私は、アクアリードさんに問いかけると、メリッサさんが「ユウティーシア様、ここはかなり人気のホテルなんですよ? 初代エルノ領主が古代文明のホテルを参考に作り上げた由緒あるラーブホテルという名前なんです」と、答えてきた。

「ラーブホテル……ラブホ……」

 私は一瞬、眩暈がしてふらついた。
 ファンタジー世界だと思っていたのに、どうして日本の用語が出てくるのか……。
 オフィスビルとはいい、日本語が使われている魔法陣といい、この世界の世界観が分からなくなってくる。

「とりあえず、此処が一番、きちんとしたホテル? ……なんですよね?」
「はい!」

 アクアリードさんは、キッ! とした表情で答えてきてくれたけど、私としては何となく微妙な面持ちになってしまう。
 とりあえず日本に住んでいた頃から、ラブホには行ったことはないけど、どんなモノか確認するのもいいかも知れない。
 ちょっとした社会勉強ということで……。  




「公爵令嬢は結婚したくない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く