公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(19)

 レイルさんの後をついていく。
 そして、応接間にしている一室、その扉の前で彼が立ち止まり数度、木製の扉を叩いたかと思うとおもむろに扉を開けた。

 どうやら、中で待っている人間には、配慮などはしないようで――。

「こちらの方が立場上は上なんだ。相手へ下手に配慮すると下に見られる可能性がある」
「そうですね――」

 私の顔色を察したのかレイルさんが説明してくる。
 ただ、長年サラリーマンをしてきた私にとって、互いのマナーやモラルなど最低限の挨拶は必要なものだという認識が根底にあったこともあり、微妙な表情をしたのが彼には分かってしまったのだろう。
 その辺だけは、どう考えても長年の習慣というのは抜けないもので――。
 三つ子の魂100までとは良く言ったものと、つい思ってしまう。

 部屋の中に入ると、応接室ということもあり調度品も高そうなモノ。
 長毛と思われる動物の皮を使って作られたと思われる椅子や、木目の美しい磨かれた木材で作られたテーブルが置かれており、いくつかの絵まで飾られていた。

 正直に言えば、成金趣味全開の部屋と言った感じ。
 私だと、たぶん落ち着かないと思う。
 よく見れば、扉のドアノブ部分も金で作られてるような――。

 おそらく前任者が無駄にお金を掛けて自分の権力というか見栄のために作らせたと思われた。

「こちらが、ミトン商工会議代表者ユウティーシアだ」

 レイルさんが、椅子から立ち上がった男に私のことを紹介した。
 どうやら、紹介事態はあまりルールはないぽい?
 私は、立ち上がった男を見る。
 男の視線は鋭く、どう見ても堅気には見えない。
 まぁ、奴隷商人をしてる時点で堅気ではないというのは分かるけど! 分かるけど!

「衛星都市スメラギに拠点を置いておりますハインゼルと申します。以後、ぉ見知りおきを――」

 彼の言葉を聞いて、私もレイルさんも一瞬驚いた。
 まさか、衛星都市スメラギに拠点を構えている商人が直接、私達との取引を望んでくるとは思わなかったから――。
 正直、現在では衛星都市スメラギの総督府とは、ミトンの町は敵対関係になっているとい言って過言ではない。
 そんな、状態の私達と取引をするなんて、現代の地球ならともかく中世の世界に近い、この世界においては致命的。
 何故なら、武力で商家を抑えることだって総督府はできるわけで――。
 そして、それにたいして抗議をすれば権力者の力が強いから一方的に叩かれるわけで……。
 それなのに、私達に取引を持ちかけてきようなんて自殺行為にも程がある。

「ユウティーシア様、レイル殿。そのお顔を見る限り誤解されていらっしゃるようですので説明をさせていただきたいと存じます。私が、ここに来たのは、今回は取引のためではございません」
「――取引のためではない?」
「はいー」

 彼は、満足そうに頷いてくる。
 私とレイルさんは一瞬、顔を見合わせたあとレイルさんは、そのまま部屋の中で立ったまま。
 そして、私はハインゼルと言う男とテーブルを挟んで反対側に座った。
 初めて座ったけど、きちんと動物の皮が加工されているからなのか、変な感触はない。

「どうぞ、お座りください」

 私の言葉に、男は椅子に座る。
 椅子に座ったのを見て――。

「それで取引のためではないというのは、どういうことでしょうか?」
「……」

 男は何も言わずに私をまっすぐに見てきているだけ。
 何も変な行動を起こす素振りすら見せない。
 つまり、これは――私を試している?

 そうとしか考えられない。
 ただ、その方法がかなり不親切ではあるけど……。

 さて、問題は目の前に座っている男が何を目的に私へ面会を申し込んできたのかだけど。
 ヒントはいくつかある。
 一つはスメラギに本拠を置くということ。
 そしてもう一つは、取引のために来たわけではないということだけど……。

 取引をしないのに、何故、私と接点を持つ必要があるのか?
 そこが気になる点。 
 スメラギに本拠を持ち、商品の売買や取引ではなく、こちらの様子を、出方を伺っているということは……。
 一番、有力な考えだとすれば――。

「スメラギの総督府関係者が、私に何用ですか?」
「どうして、私がスメラギの総督府関係だと?」
「どうしてと言われましても、わざわざ自分からスメラギから来て商品の取引ではないとしたら、他に何がありますか?」

 私の前に座っているハインゼルという男は、私の言葉を聞いて肩を竦めた。

「なるほど――。どうやら貴女は、国を運営する能力はないようですね」

 彼は、私の目を見ながらそう言葉を紡いでくる。
 そして、ハインゼルの表情から伺えるのは、失笑に近い。

「何が言いたいんですか?」
「いえいえ――。ただ、貴女は真っ直ぐに物事を考えすぎる。そして、それでは国は回らない――」

 たしかに、彼の言うとおりリースノット王国が栄えていたのは、私の手腕というよりもウラヌス公爵の尽力がとても大きい。
 私がしていたのは、せいぜい地球の知識を小出しに教えていただけに過ぎないから。



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